tomoka 22
明がこの映画を選んだのにもビックリだったけど、それよりも明が見知らぬ女にハンカチを差し出すことに驚いた。
「二時間も隣にいて気付かないとわね。」
明の驚いた顔が面白くて、笑みが溢れる。
「とりあえず出よっか?」
その言葉に頷くと、明に続いて劇場を後にする。
「好きなんだね。」
「えっ?」
「映画。
前も映画の後にうちの店来てたから。」
「…あぁ、そうだったっけ。」
明、好きって言葉から何を想像したんだろ。
「実は涙もろい?」
「や、今回はたまたま。」
恥ずかしいとこ見られちゃったな〜。
とうつ向いていたら、
「よく一人で来る?」
と聞かれて顔を上げる。
「たまに来る、かな。」
ムショウに観たくなる時があるんだよね。と返すと、明は何か考え込んでいる様子で。
「やっぱり似てるのかな。」
「何が?」
「直樹がさ、俺と香は似てるって言ってて。」
─俺はそうは思ってなかったんだけど。
と言う口ぶりに少し不満を覚える。
「ふ〜ん。」
「香はどう思う?」
「あたしは、明くんに」
「明でいいよ。」
「…明に会ったときからおんなじ匂いを感じてたよ。」
─あの目を見てから、
明をもっと知りたいって思ってたよ?
─この時あたしは気付いていなかった。
自分の軽弾みな行動が、人を傷付けていたことに。
「香ちゃん、朋子ちゃんから連絡なかった?」
「えっ、朋子まだ来てないんですか?」
バイト先の社員さんに聞かれるまで、あたしは朋子が来ていなかったことを知らなかった。
昨日飲み過ぎてたし…大丈夫かな。
「そういえば、昨日具合悪そうでしたよ。」
「そっか、大丈夫かな。
…今日は人足りてるから、無理しなくてもいいよ。って伝えてくれる?」
分かりました。
と頷いて、裏で朋子にメールを打つ。
To:今野朋子
大丈夫??
マネージャーが今日は休んでいいってさ(^^)v
ゆっくり休んでね。
それだけ書いて送信する。
返事がマメな朋子のことだから、バイトが終ったころには、どうしたのか分かるだろう。
一人少ないせいか、お客さんはあまり入っていないようなんだけど、パタパタしていて。
─やっぱり朋子がいないとピシッとしないな。
いつもなにげなく助けられていたことに気付く。
「お疲れさまでした。」
レジ占めをしている社員さんに声をかけて更衣室に向かう。
携帯を確認すると、まだ朋子から返信が来ていなくて。
「めずらしいな…」
思わず口から出た呟き声を、隣で着替えていたケイコに聞かれていたようで。
「どうかした?」
と聞かれたが首を横に振って答える。
ケイコ、木村佳子はあたしたちと一緒に入ったバイト仲間の一人で。
見た目はフランス人とのハーフっぽいのに、中身はくだけてて。
あたしが大好きな友達の一人だ。
「そういえばトモ、しばらく休むってね。」
─え?
「連絡来たの?」
「うん、さっきメール入ってたよ?」
─なんで…?