tomoka 20
─でも、あたしが射抜かれたいのはこの目じゃないの。
「ねぇ、」
「どうしてあの時あんな目をしてたの?」
そのあたしのセリフは、台所で直樹が起こした騒音によって掻き消された。
直樹?と呟いて、台所に向かう明。
直樹は台所の前の廊下に倒れていたが、意識はあるようだった。
ホッとした表情を見せる明を、あたしはずっと見つめていた。
直樹が潰れたから俺の家で寝かすわ。と言って帰る支度を始めた明の背中に、
「あたしも着いていっちゃダメかな?」
直樹ちゃんと歩けるか微妙だし…と付け足す。
もちろん心配なのもあったんだけど、明ともっと話をしたかった。
そんな思いを知ってか知らずか、夜道は危ないからいいよ。と、明は首を縦には振ってくれなくて。
少し、さびしかった。
─あたしが男だったら、時間なんて気にしないで朝まで付き合えるのに…
男同士の世界って、楽しいんだろうな…
直樹を支えながら去っていく明の背中を見送っていたら、そんなことがフッと心をよぎった。
あたしには想像するしかない世界。
アリサの部屋では朋子とアリサが布団にくるまって仲良く寝ていて。
二人を起こさないように気を払いながら、タオルケットを一枚借りてそれにくるまる。
明にもっと近付いてみたかった。
次の朝目が覚めるとアリサも朋子も起きていて。
朋子は二日酔いで頭が痛いらしく、バイトまで家で休むね、と言って帰って行った。
あたしも夕方からバイトだったから、一回家に帰らなきゃいけなかったんだけど。
アリサと話をしてみたくて。
わざと具合いが悪いフリをして、アリサの家に残った。
「ありさちゃんてさ、一人っ子?」
「ワガママな末っ子だよ。」
「お兄ちゃん?」
「…お姉ちゃん。」
「あたしは妹が一人いるんだ。
上にいるのってうらやましいな…」
「そうかな」
「出来がいいお姉ちゃん持っちゃうと比べられて大変だよ〜?」
本気に取れれないように、そう言って笑ったアリサの笑顔は、いつもの感じと違って見えた。
─今は留学してるみたいだよ。
直樹の言葉を思い出した。
「明、くんとは長いんだっけ?」
明には呼び捨てで良いと言われたけど、なんとなく今まで通りに『くん』をつけた。
「そうだね〜、もう10年以上経つかな?
…アイツは昔っから顔が怖かったから、普通の女の子は近付きにくくて。
だから本人は自分はモテないって思ってたと思う。」
へぇ。
「じゃ、実際はモテたんだ?」
そこそこね?
アイツ、サッカーだけはうまかったから。