tomoka 14
目の前に紅茶が入ったカップが置かれる。
恐る恐る朋子の様子を窺ってみると、怒ってはいない…ようだった。
「それで、」
朋子の表情が真剣になる。
「香は…アキラくんと知り合いだったの?」
今にも泣き出しそうな朋子の表情を見ると、思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる。
「大丈夫だよ?」
─何も心配しなくていいんだよ?
「朋子が心配することなんて全然ないから。」
─だってあたしが好きなのは、
「ただ直樹の忘れ物を渡しただけ。」
─アキラじゃないから。
「…あの人の顔が怖くて、渡したら逃げちゃって。」
─だからそんな顔しないで?
「ただそれだけだよ。」
あたしの一言一言を、噛み締めるように聞いていた朋子は、ゆっくり10を数えてから目を開いた。
「よかった…」
「あたしね、香がアキラくんのこと好きだったらどうしようってずっと考えてて。」
香とアキラくんだったらお似合いかな、とか考えて。
バカだよね?と言って笑う朋子が今にも泣きそうに見えて。
こんな時、男だったら抱き締めてあげられるのに。
自分の力のなさが歯がゆかった。
─ねぇアキラ。
─アンタのことをこんなに想ってる子がいるって分かってる?
─早く気付いてあげてよ…お願いだから。
あたしは時々この時の朋子を思い出して。
その度に、あの子の顔が消えるまでじっと耐えた。
朋子のことを本当に好きなのかは分からなかったけど、朋子のことを考えると、いつも胸が痛くなった。
─明の友達だというアリサに会ったのは、そんな頃だった。
いつものようにバイトが終わって帰ろうとしていたら、直樹が朋子をご飯に誘っていて。
直樹のことを考えたらあたしは帰るべきだったんだろうけど…
それじゃみんなでLUCEに行こうって話になったところでアリサに会った。
一度明とお店に来た時に、朋子と意気投合したらしくて。
アリサちゃんも一緒に行くなら、明くんも誘ってみよ?
と朋子に言われたら、直樹は断れるわけもなく。
明に電話をかけていた。
「明寝てたみたいで。後から来るってさ。」
だから先に行ってよ?と言う直樹にみんな賛成して。
地下鉄に乗ってお店に向かう。
アリサと朋子で話が盛り上がっているようなので、あたしも直樹とサークルのことについて話をしていた。
話している時も、直樹の意識は朋子にあるみたいだったけど…