nao 93
部屋の電気を点けて、開けっ放しの窓を閉めると、台所から紙コップを2つ用意する。
「悪い、家具は送ったからテーブル無いんだ。」
辛うじて残しておいた枕代わりのクッションを渡す。
「いいよ、宅飲みする時なんていっつもこんな感じだし。」
むしろクッションあるだけマシ、と笑顔を見せる直樹に見惚れそうになり、慌てて視線を反らす。
「、おっ、これ俺の好きな酒じゃん。さすが直樹。サンキュ」
「明にはお世話になりっぱなしだったから、このくらいはね。」
好きな酒を互いに持つと、
「「乾杯」」と缶を合わせた。
俺も直樹も口数がそんなに多い方じゃない。
でも2人でいる時は喋ってない時間も気まずさが無かった。
ポツリ、ポツリと4年間の思い出を語り合い、くだらない話で盛り上がった。
「、俺さ」
「…うん」
「クリスマスの時。明に話してもらった時。すごいパニクっちゃって。」
「…」
「何も言えなくて、ごめん。」
「いや、普通に考えてパニクるだろ。謝んなくていいよ」
「…うん。でもさ、もし逆の立場だったら。明ならスマートに対応できたんじゃないかな、とかね。いろいろ考えてて。」
「買いかぶりすぎだろ。俺だってパニクるわ。」
「そうかな、いや、違う。そんなこと話したかったわけじゃなくて。」
うつむいていた顔を上げて、真っ直ぐに俺を見る、真剣な表情から目を離せない。
「ありがとう。俺なんかを好きになってくれて。」
「…なんかって何だよ。仮にも俺が好きになったヤツのこと、本人だろうが貶すんじゃねぇよ。」
そう言うと、直樹は泣き笑いのような顔をして笑った。
「明、その発言は男前すぎる」
「今更気づいた?」
「いや、男前なのは知ってた」
そう言うと、お互いクスクスと笑い合う。
「…もう一回、ちゃんと言ってもいいか?」
俺がポツリとそう尋ねると、直樹は少し考えてから頷いてくれた。
「…サンキュ。俺さ、菜々子と別れてからもう一生恋はできないと思ってた。でも気づいたらお前がいて。
いや、前からずっといたんだけど。
いつの間にか、心の中心にお前がいるようになって。
いつの間にか、お前が好きになってた。」
そこまで言うと、ホッとしたのか身体から力が抜けたのが分かった。
「…こんなにストレートに告白されたの始めてだよ。」
「グッと来た?」
「…来た。」
「ずっと怖くてさ。この気持ちを伝えたらお前と一緒にいられなくなると思って。」
「…うん。」
「だから、卒業するまでは、…いや卒業しても言うつもり無かったのに、言っちまった。
…トモコとのこともカオリから聞いた。…悪かったな。」
「いや、朋子ちゃんのことは明の所為とかじゃないから、大丈夫。」
クリスマスに彼女放って友達の家に行くようなヤツは、フラれて当然だからね。と笑う。