nao 92
いつかどこかで、か。
また会いたいな。素直にそう思えた。
読み終えた手紙を畳んで、封筒に入れると、荷造りしておいたスーツケースの内ポケットにしまう。
スーツから普段着に着替え、大学最後の飲み会に向かうべく家を出た。
「「「「乾杯!!」」」」
総勢何人いるか分からないほど集まった同級生たちと、卒業を祝う。
就職先が北海道なこともあり、このメンバーと会うのもこれが最後かと思うと、少し寂しい。
どの顔も晴れの日だからか笑顔が多い。
ーもちろん、一部例外もいるが。
「あんた、何で北海道なんて行くのよ〜」
「せっかくの化粧が、泣くと崩れるぞ?」
「直樹くんがいないから、崩れてもいいの〜」
アリサは大分飲んだようで、先程からずっとこの調子だ。
「…いつでも遊びに来いよ。俺もたまには顔出しに行くし。」
「いつでもって言ったわね?本当に押しかけてやるんだから。」
「あぁ、お前ならいつでも歓迎するよ。」
「…ほんと、そうゆう無自覚な発言がムカツク。」
「え?」
「落ち着いたら引っ越し先の住所連絡しなさいよ、って言ったの!」
苦笑しながらアリサに了解を告げると、未だ文句がありそうな顔をしながらも、納得してくれた。
他にも何人かと一通り話をしたところで、締めの挨拶となり、二次会に流れるグループ、他のグループに合流するヤツら、とそれぞれ別れることになった。
俺は引っ越しの関係もあり、二次会には参加せずに帰ることを伝え、4年間過ごした学友たちに別れを告げた。
ーーーー
ガランとした家に帰ると、なんとなく電気を点ける気分になれず、暗い部屋の中を突っ切り窓を開ける。
冷たい空気が部屋の中に入り込んで来たが、構わなかった。
ボンヤリと輝く星空を眺める。
ーピンポーン
誰が来たかは何となく分っていた。
きっと来るだろうな、と思っていたから。
どんな顔をして迎え入れたらいいのかが分からなくて、玄関を見つめたまま身動きができなかった。
ーピンポーン
2回目の電子音に背中を押されるように、ノロノロと玄関へ向かう。
鍵を外して、ドアを開けると、やっぱりそこにはアイツがいた。
「お疲れ。飲み会抜けて来たのか?」
「うん。最後はやっぱり明と飲みたいなと思って。」
そう言うと、直樹は途中で買って来たのか、手に持っていたビニール袋を掲げてみせた。
「、準備万端じゃねーか。俺がいなかったらどうするつもりだったんだよ。」
酒まで準備してきてくれた気持ちが嬉しくて。でも、嬉しい気持ちを悟られないように茶化してそう返す。
「いない時のことは考えてなかった。」
と綺麗に笑うと、お邪魔します、と言って直樹が家に入ってきた。