nao 91
「…ナナコ?」
「、分かってるじゃん。本当はクリスマスに届いてたんだけど。明ずっといなかったから渡せなくてさ。」
「そか。…サンキュ」
相変わらずキレイな文字でかかれた俺の名前。裏返すとあの人の名前がきちんと記されていた。
「アキラ、」
「ん?」
顔を上げると今にも泣きそうなアリサがいて。
「次黙ってどこか行ったら探偵事務所に頼んで調べてもらうから。」
その金はどうせ俺に請求するつもりだろ。さては。
「…もう行かねぇよ。」
―大丈夫。もう誰かをあんなに好きになることはきっとないだろうから。
「だから泣くなよ。化粧落ちるぞ?」
ポンポンと頭をたたいてやると、ようやく少し落ち着いたのか、今度はカバンから取り出したハンカチで目元を拭っていた。
「じゃ、またな。」
「うん!」
笑顔になったアリサが友達のところまで戻るのを見届けると、俺は駅へと足を向ける。スーツにネクタイはまだ慣れなくて。早く脱ぎ去ってしまいたかった。
朝出てきた家のドアを開けると、寒いわけではないのにひんやりとした空気に包まれた。
ガランとした部屋。
大部分の荷物はもう送ってしまったから、残っているのは最低限のものだけだった。
直樹がよくもぐりこんでいたコタツも、もうこの部屋にはない。
しわにならないようにスーツをハンガーにかけ、ネクタイも吊るしておく。
普段着に着替えるとようやくホッと一息がつけた。
グループのヤツラとの飲み会までには、まだ少し時間がある。
―アイツ普通だったな…。
クリスマス以来、初めて会ったはずなんだけど。
―俺も普通に出来てたのかな…。
会えたことがうれしくて、普通かどうかなんて気にする余裕もなかった。
ふと目の端に白いものが映る。スーツのポケットから顔を覗かせているそれに手を伸ばすと、アリサから渡されたあの人からのエアメールだった。
――――――
Merry Christmas, Akira!
元気にしていますか?
今年でもう卒業だね。
明のことだから就職も早々に決めていることだと思います。
私の方も院への進学が決まり、これまで以上に忙しい毎日です。
でも毎日が楽しくて。エネルギッシュな人たちに囲まれて元気に過ごしています。
あの日のことを、明にお別れを言った日のことを私は後悔していません。
誰よりも、何よりもあなたのことが大切でした。
いつかまた会えたら、私と一緒に笑ってくれる?
それではまた。いつか、どこかで。
Nanako