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nao
恋愛リレー小説 - 同性愛♂

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nao 89

「やったよ。じゅうぶん。」
 覚えてない?そう、少しさびしそうに尋ねるアイツを笑顔に変えたくて。
「覚えてるよ。」
 自分に言い聞かせるようにそう断言する。だって、忘れられるわけないだろ?
「そっか。」
「…お前がいてくれてよかった。」
 恥ずかしくて顔が見れないから、足元を見つめながらそう呟く。
「ありがとな。」
「あきらぁー?!!」
 静寂を守っていた体育館を揺らがすような大声。もちろんこの声の持ち主も俺にはすぐ分かる。

「おぉ、ありさ?」
 入り口から相当急いできたんだろう。せっかくの袴姿なのにオシトヤカに思えないのが残念だ。
「久しぶりだな。元気だったか?」
「元気だったか?じゃないでしょ。ばか。なんでいっつも何も言わないでどっか行っちゃうの??」
「お前、せっかくキレイにしてもらったんだから泣くなよ。」
「ばかアキラ!」
「ちょっ、お前俺のスーツで鼻かむんじゃねぇ!」


 
「明くん来てるみたい。」
 携帯に先ほど届いたばかりのメールを見ながら朋子はそう呟く。

「そっか。行かなくていいの?」
 答えは分かっていたけれど、一応聞いてみる。
「…うん。」
「直樹には、会わなくていいの?」
「……うん。」
 明の時よりも長く考えてから朋子は頷く。
「そっか。」
―最後になるかもしれないよ?言葉がこぼれそうになる。
「ねぇ朋子」
「ん?」
 でも、せっかく笑えるようになったこの笑顔を壊したくなかった。
「その袴似合ってるよ。」
「これ香と一緒に選んだんだよ?」
「うん。知ってる。」
「香も。やっぱり青が似合うね。」
「でしょ?ありがと。」




 あっけないくらい何事もなく式は滞りなく進んでいき、何事もなく終わりを迎えようとしている。あと数分で「大学の同級生」というくくりでつながれなくなる隣の男をチラリと見やる。
―何事もなく。それでいい。最後にアイツに会えて。それだけで十分だろ?
―本当にそうか?
―あぁ。
―もう会えなくなっても後悔しないんだな?
―…あぁ。
―相変わらず嘘が下手だな。
―うるせぇよ。
―まぁいいさ。お前がそれでいいならオレはそれでいい。
―ただ、
―ん?
―後悔はするなよ。

「相変わらずおせっかいだな。」
「え?」
 ボソッと呟いた俺の声が聞こえたらしい。怪訝な顔で俺を見つめるアイツに「なんでもない。」とだけ告げると、目の前の式に集中するフリをする。



無事式が終わって、どっと卒業生たちが式場の外に吐き出される。それを待ち構えていた後輩たちの歓声やら胴上げやらがあちらこちらから聞こえてきて。
アイツもその例に漏れず会場から出ると、早々に後輩たちに囲まれていた。アイツが女の子たちに囲まれている様子を見ると、やっぱりチクリと胸が痛む。

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