nao 88
式は10:00〜だから、30分前には会場に着ける計算で家を出たら、予想以上にスムーズに着いてしまった。
結局最寄の駅に一時間前に着いてしまって。さすがに誰もいないかと思っていたら、正装しているやつらが結構多くて。みんな気合は入ってんだなぁ。となんだか感心してしまう。そういう自分もその中の一人なんだと気づいて苦笑してしまったけど。
駅から一歩外に出ると外は快晴で。色素の薄い青空を見上げると目を閉じる。こうすると体全体でその日の空気を感じられる気がして心地良いんだ。長野にいた時に毎朝仕事前にこれをやるのが癖になっていて、帰ってきてからも天気の良い日はこれをやる癖が抜けきらずにいた。肌に当たる風が少し冷たいが、このくらいのほうが俺は好きだ。それに向こうのことを思えば、寒いというのもはばかられる。
―うん。今日はいい日だ。
深呼吸を一つしてから目を開ける。
俺と一緒の電車で来ていたヤツラはもうずいぶんと先を歩いていて。急ぐ必要もない俺は、その後ろ姿をタラタラと歩いて着いていく。
さすがに会場となる市体育館に着くと、ある程度人がいて。この中から知り合いを見つけるのはしんどいだろうな…と思っていたのに。
「明」
―振り向かなくたって分かるんだ。その声が誰のものなのかって。
「よぉ。元気してたか?」
そう言って振り向いた3メートルほど先に、3月の陽光に照らされた、アイツがいた。
「うん。明は?」
「むだにムキムキになったぞ。」
「そうなんだ。すごいね」
俺のスーツの下でうごめいた筋肉に、目を細めて笑う顔がキレイで。久しぶりのアイツの笑顔に…目のやり場に困った。
「行こうぜ」
「うん」
何千人もいる俺らの大学の卒業式で、何の約束もせずに誰かと誰かが会うことはほぼ不可能に近いと思ってた。
アイツが俺のことを見つけてくれたのがうれしくて。あの日以来、3ヶ月ぶりの再会だってことを忘れてしまうくらいだった。
ガランとした式場の中、簡易イスだけがズラッと並べられている。
大学の職員だろうか。何人もが慌しく準備に追われているようだった。
「あっとゆう間だったよな。」
端のほうのイスにどかっと腰を下ろすと、なんだか急に実感がわいてきて。寂しさをごまかすようにわざと明るい声を出す。
「大学4年間なんて一番バカなことできる時間だったのに」