nao 86
香は無言で俺に絞ったタオルを渡すと、ベッドに背を向けて座った。部屋着を持ってきていたのか、先ほどよりも動きやすそうに見える。
「…そういえば、アイツ元気にしてる?」
唐突に質問が口からこぼれ出た。
「あぁ、ナオキのこと?」
「うまくいってんだろ?アイツは彼女大事にするタイプだからなぁ。」
「二人、別れたよ。」
なんでもないことのようにそう告げられたから、始めはその意味をよく理解できなかった。
「………は?」
「去年のうちだったからもう、2ヶ月は過ぎたかな。」
ナオキトトモコガワカレタ。
「…なんで」
幸せを壊したかったわけじゃないのに。
誰よりも幸せでいてほしかったのに。
「その理由をあなたに聞きに来たの。」
あの日の直樹の顔が頭の中をぐるぐると廻る。
「……俺に?」
「そう。明に。」
挑むような香の視線に少し怯む。
「あの日、クリスマスの日。ナオキはあなたのところに行くって言って朋子と別れた。ところがあなたのところから帰ってきたとたん、朋子に別れを告げた。」
どう考えてもあなたのところで何かがあったって考えるのが普通じゃない?
「…なんかあったとしても、香には関係ねぇじゃん。」
噛み付くような勢いでそう言ってあたしを睨むと、明はふぃっと視線を反らした。
息を大きく吸い込むと、音が漏れないようにそろそろと吐き出す。
言うしか、ない…か。
いつかこんな日が来る気がしていた。明には自分の感情をすべてぶちまけてもかまわないと思っていた。
「あたし、朋子のことが好きなの。」
「友達としてじゃなくて、一人の女の人として。」
「でもあの子に自分の気持ちを伝える気はないの。」
「ナオキと付き合ったときに気づいたんだ。」
「あの子が幸せな顔して笑ってる側にいれるだけで、それだけであたしは十分なの。」
「だからね、あの子を泣かせるヤツは…たとえあなたでも許さない。」