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nao
恋愛リレー小説 - 同性愛♂

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nao 85

 一人でやろうと思えばできる量だろうけど、オヤジさんには明日の朝食の仕込みもあるはずだった。一人じゃ無理っすよ。という意味を込めた視線をオヤジさんに向ける。
 オヤジさんは俺の考えていることが分かったのか、「ここは大丈夫だよ。」と言って、フフッと笑った。
 俺がまだ納得のいかない顔を作っていると、
「だって…中野様は高橋くんに会いに来たんだろ?」と、オヤジさんはいたずらっぽく笑った。
  ナカノサマ?


「ほら今日来た飛込みの女の子。」
 あ、香の苗字って中野だったっけ。…たしか直樹に教えてもらったんだよな。
「いや、そういうわけじゃないと…」
「そう言えるかい?」
「いや…あの」
 言葉に詰まる俺のことがよほどおもしろいのか、オヤジさんは笑いをこらえるので必死みたいだった。オヤジさんってこんな人だったっけ?
「…、はい。というわけでお疲れ様。その代わり明日はいつもどおりの時間でお願いしてもいいかい?」
「…分かりました。」
 
 キッチン用のエプロンを腰から外すと、厨房の隅に畳んで置く。「お疲れ様です。」と言って厨房から出ようとした俺に声がかけられる。
「大事にするんだよ。」
 絶対に何かを勘違いしているオヤジさんの言葉。だけどそれは俺の心に響いた。後ろを振り向かないまま、軽く頷くと俺は二階へと向かった。

「…僕みたいに後悔しないようにね。」 
 呟くように言葉にされた親父さんの言葉を噛みしめながら。






 香の部屋の前まで来てから、どうしたものかと考える。…もう今日は遅いから、明日にしたほうがいいかな。
 扉をノックしかけたこぶしをぎゅっと握ると、扉に触れる前に引っ込める。―と、突然目の前に扉が迫る。
 鈍い音を俺のおでこと扉とで盛大に奏でた。その後ろからびっくりしたように顔を出した香の顔が涙でぼやける。

「アキラ?」
「…よぉ。」
「…大丈夫?」
 あまり心配していないような顔でそう言うから、俺は思わず「イタイ。」と返してしまった。


 ごめんごめん、外で物音がしたからアキラだと思って。部屋に備え付けのタオルを洗面所で冷やしながら、香はつぶやくように詫びた。
「ん、や意外と大丈夫かも。」
 今日初めて訪れた場所とはいえ、女の人の部屋にあるベッドに座るのはどうかと思い、俺は机を挟んでベッドの向かい側に腰をおろしていた。

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