nao 79
「お前、本当お人好しすぎだぞ?ばーか。普通クリスマスに彼女置いて来ないだろ。こんなとこ。」
そう言う明の目から涙がこぼれそうになる。
「明…大丈夫?」
それに触れようとした俺の手を明は避ける。
「触んな」
「…どうして?」
口調とは裏腹に、触れたら壊れてしまいそうな明の瞳が揺れる。
「抑えが効かなくなるから。」
「何の?」
「バカ直樹」
そう言って俺を抱きしめる明。肩に回された腕から振動が伝わる。
「明?」
いつもとまったく様子が違う明に、どうしていいのか分からなくて。
うろたえる俺の耳元に、明はさっき俺がした問いかけの答えを囁く。
「…え?」
聞き間違い、だよな。でも…?明は俺から身体を離すと、涙で濡らした瞳で俺を見据える。
「お前のことが好きなんだ。だから、もうここには来ちゃダメだ。」
「あき…ら?」
冗談だぞって前みたく言われるのを待っていた俺は、いつまでも変わらない硬い表情の明を見ていた。
「ごめん。こんなこと、言うつもりじゃなかったのにな…でも、これが俺の気持ち。この春からずっとお前に隠してきた俺の気持ち。」
一言一言を搾り出すように話す明。
「…本当に?」
俺のこと好きなのか?そう目で尋ねる俺に、明はフッと目を細めた。
「見せてやるか?証拠」
そう言うやいなや、すごい力で玄関の中に引っ張られると玄関の壁に背中を押し付けられる。衝撃で軽くむせた俺の目の前に明の顔がせまる。バタンとドアが閉まる音が、やけにうるさく感じた。
「…明?」
体の震えが声に伝わったのか、声がかすれてうまく出ない。その声に、明の動きがピタリと止まる。あと3cmで俺に触れそうな明の唇が噛み締められる。
「…ワリィ。でも分かっただろ?だからもう来るな。」
押し出されるように扉の外に追いやられると、声をかける間も与えてくれずに明はドアを閉めた。
あの日から俺はアイツと会わなくなった。
学年末のテストはほとんどがレポートだったから、期限ギリギリに提出に行って以来、学校の近くにも近寄らなかった。
春休みに入ると俺はすぐにリゾートのバイトに登録した。早々に県外の勤務が決まってからは自分の家にも帰っていなかった。
一人であの家にいることは出来そうになかったから。
「高橋くん、今日はもういいよ。」
ベージュで統一されたキッチンから親父さんがそう声をかけてくれる。
「あ、はい。…これ片付けちゃってからでもいいですか?」