nao 77
その顔がおかしくて、俺は笑いを堪えるので必死だった。
「…本当寂しくなるな。」
「何がだよ?」
「だって来年から明は北海道だろ?全然会えなくなるじゃん。」
「、そうか?飛行機だったら日本中どこにいてもすぐだぞ。今の時代、地球の裏側にだって会いに行けるしな。」
「そうゆう意味じゃなくてさ。毎日一緒にいるのが当たり前だったから…明が遠くに行くって実感がないのかもしれない。」
「…生きてりゃ会えるよ。どこにいたってな。」
…なんで明が言うと、どんな言葉でも本当に聞こえるんだろう。
俺にとって高橋明は不思議な存在なんだ。気付いたらいつも側にいてくれて、俺の話を聞いてくれる。でも明の事、俺はよく知らないって最近気付いたんだ。
明が先生になりたいことも知らなかったし、明がななちゃんと別れた原因も、明が今誰のことが好きなのかも…何も知らないんだ。
ムリに聞き出そうとは思わないけど、何も話してもらえないのは正直つらかった。
明との間に見えない壁があるみたいで。
「明はさ、」
「ん?」
ミカンを剥く手を止めて俺の方を向く明。
…いつからだろう。明の目の中に、俺の知らない色が映るようになったのは。
「明は、寂しくならない?」
視線を手元のミカンに戻す明。
「…なるけど、俺そうゆうキャラじゃないからなぁ。」
「じゃあさ、なんでわざわざ遠いとこの試験受けたの?」
「ん、いろんなとこに行ってみたかったから。直樹知ってる?向こう雪すげーんだぜ。」
「…それだけなのか?」
「あぁ。そうだけど?」
それだけじゃないって顔に書いてある。そう言おうかと思ったけど、やめておいた。
前に明が約束してくれたのを思い出したから。
─今はまだ、その時期じゃないってことなんだろ?
心の中で明にそう尋ねてみる。
その時がいつなのか。その答えを知ったのは、もう少し後のことだった。
「プレゼントは鞄の中に入れたし、携帯も持った。財布もあるし…行くか。」
一年の中で一番街中が浮き立つ今日。俺はカバンを手に取ると、車の鍵を握り直す。
今日は軽く飲む予定だから、車は駅前の駐車場に停めてバスで向かうつもりだった。
「じゃ、行ってくるから。」
居間に声をかけてから家を後にする。
アニキたちも、昨日さんざん今日のことについて俺をいじって満足したのか、ガンバれよと言って送り出してくれた。
外に出ると、快晴とまではいかないけれどまずまずの天気だった。
─初雪、二人で見れるといいな。
恥ずかしそうにそう言った朋子ちゃんの顔が浮かんできて、思わず頬が緩んでしまう。
「…降るといいな。」
祈るように空を見つめてから車に乗り込む。
「ゴメン、待たせちゃったよね?」
あらかじめ決めておいた待ち合わせ場所に着くと、朋子ちゃんは先に来て待っていてくれたみたいだった。