nao 76
朋子ちゃんを家まで送って、その足で明の家まで行ったんだ。
明の家のインターホンを鳴らす。この呼び鈴を、俺は何回鳴らしたんだろう。その度に明は俺を迎えいれてくれて…こんなに緊張しながら待つのは、初めてかもしれない。
ガチャッと鍵を開ける音がして、扉が開かれた。
「直樹、」
俺を招き入れるためにドアを押さえながら半歩横にずれてくれる明。
「…今日はここでいいよ。」
「ん、そっか。」
体の具合でも悪いのかな…いつもより明のトーンが低い気がした。
「どした?」
「…あ、俺明に言うことあって。」
明の顔が、一瞬曇る。でも次の瞬間には消えていたから、俺の見間違いかと思ったんだ。
「うまくいったんだろ?」
声を弾ませ、俺よりも高いテンションでそう尋ねる明に、さっきのはやっぱり勘違いだったんだと思った。
「…うん。実はさっき返事もらったばっかりなんだ。明に一番に伝えたかったから。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。っまぁ、告白出来たのも俺のオカゲだしな。」
そう言ってニヤッと笑う明。その顔がおかしくて、俺は思わず笑ってしまう。
「…、でも本当に明のおかげだよ。ありがとう。」
「、だろ?…良かったな、直樹。」
自分のことのように喜んでくれたのが嬉しくて、俺は何も気が付かなかったんだ。
明がこの時何を考えてたのか。何を思っていたのか。何も分かっていなかった。
「…それで、予定はもう立てたのか?」
「予定ってクリスマスの?…んー実はまだ決めてないんだよね。」
明の家のコタツは本当に居心地が良くて。気を抜くと寝てしまうくらいのクセモノなんだ。
「お前さぁ、早く予約しとかないと良いとこ全部埋まっちゃうぞ?」
「ねぇ、やっぱりさ、思ったんだけど…今年で最後だし。みんなでパーティーしない?ほら、和哉とかも呼んでさ。」
「…あ〜悪い。俺冬休みに実家から招集命令かかってんだよ。就職決まったこともちゃんと報告しないとだし。」
「…そっか。」
明が実家に帰るなんて話を聞いた覚えがないから、ヘタしたら3年くらい帰ってないんじゃないんだろうか。
「いつぶりに帰るの?」
「家にか?……あれ、そいやいつぶりだろ。オフクロ俺の顔覚えてっかな。」
本気で心配し始めた明。
「子供の顔忘れる親はいないから大丈夫だよ。」
「…でも分かんないぞ?俺の親だし。」
冗談とも本気ともつかない明の表情に、俺は何て返したらいいのか一瞬戸惑う。
「や、冗談だからな?」
「え?」
「さすがのウチの両親でも、顔くらいは覚えてるだろ。たぶん」
「…たぶんなの?」
「んー自信はない。」
真面目な顔してそんなこと言うから、笑っちゃうだろ。本当に明は…
「本当、明っておもしろいよね。4年も一緒にいて全然飽きないしさ。」
「おもしろい…って俺がか?んなこと言うのお前くらいだぞ。」
いかにも心外とばかりに俺を見つめ返す明。