nao 61
アリサの口から安心したような笑い声がこぼれた。
「とりあえず元気みたいでよかった。」
ずいぶん心配をかけてしまったみたいで…
ごめんな。心の中でそう呟くと布団から起き出す。
まだ頭はズキズキと痛んだが、味噌汁の良い香に胃腸は大分元気になったようで。
──────────
好きな人がいるんです。
でもその人は別の男が好きで。
しかもそいつは俺の友達で。
友達ってか親友で。
毎日一緒にいるやつで。
そいつは俺の気持ちを知ってるやつで。
でも俺、そいつが相手なんだったら諦められるかもって思った。
そしたらそいつ告白断ったらしくて。
わけわかんなくて。
だって、そいつもその人のこと好きだって言ってたから…
ひょっとしたら俺に遠慮してんのかな、とか思ったんだ。
もしそうなら、そんな気使われたくないし。
そう言おうと思ってたんだけど。なんか今変なことになってんだよね。
「直樹くん、もう上がり?」
「そだね、5時で上がっていいって言われてるけど。」
「じゃ一緒帰ろ?」
話したいことがあるんだ。って小さく呟くと、朋子ちゃんはそそくさと仕事に戻っていった。
朋子ちゃんがバイトに復帰して2週間が経っても、俺は未だに明と話が出来ないでいて。
明は教職志望だったみたいで、9月に入らないとメシ食うヒマも無いってぼやいていたんだ。
電話はたまにするけど、やっぱり大事なことは顔見て話したいし…。
「お疲れ様です。」
マネージャーと、遅番のバイトの人たちに声をかけてからロッカーへと向かう。
女の子の更衣室と違って男のロッカーは簡素な作りで。一応一般の人は入れないようにはなっているけど、入ろうと思えば誰でも入れるような構造になっていた。
だから大抵のバイトの人たちは貴重品を身に付けながらバイトをしている。
ロッカーへと向かう途中で携帯をポケットから取り出すと朋子ちゃんからメールが来ていた。
LUCEで夕ご飯でもどうですか?か。
朋子ちゃんとだったらどこでも良かった俺は、了解です。とだけ書いてメールを返す。
今日もちゃんとした服選んできといて良かった。
更衣室の入り口にある鏡で髪を整えてから、朋子ちゃんに電話をかける。
うまくいけば地下鉄に2人で乗れるかも。
高まる期待を押し込めながらコール音に聞き入る。
「もしもし?」
―おかけになったお客様は現在電波が届かないところにおられるか、電源を切っておいでです。
先に地下鉄乗っちゃった、か。
相手が明だったら待ってたのかな。