nao 58
─去年の今頃は本当に酷かったんだ。
何をしててもその人が頭のどっかにいて。
ずっと…なんだろ。
記憶の中で生きてたんだ。
そんな俺を、みんなずっと見守ってくれてて。
そのことに気付けたのは最近なんだけどさ。
今俺が笑えるようになったのは、その人たちの…直樹のお陰なんだ。
アイツがいてくれたから俺の今があって。
だから俺の中で、アイツが一番大事なんだ。
そこまで言うと言葉を切ってトモコを見る。
トモコは俺の言葉は理解出来たけど、答えになってないように感じているみたいで。
話の続きを待っているようだった。
「俺さ、」
─そう言って言葉を切った彼の顔を真っ直ぐに見つめる。
その口ぶりからも、彼があたしの気持ちには添えないことを汲みとれた。
…でもあたしは彼の口から全てを聞きたくて。
次の言葉をじっと待っていた。
「俺、アイツのことが好きなんだ。」
─うん、分かってたよ?
「自分でも何でアイツなのか分かんない。」
─だっていつも目で追ってたもんね。
「でも、アイツじゃなきゃダメなんだ。
…ごめん。」
─謝らないで。
泣いたりしないって決めてたはずなのに、涙は止まることがなくて。涙でぼやけた視界の先にいる彼の姿が困って見えて。
こんなんじゃダメって分かってるのに止められなかった。
─涙でぐちゃぐちゃになった顔で、無理して笑顔を作ろうとしているトモコの姿は、見ているだけで痛々しくて。
抱き締めることも、突き放すことも出来ない自分が不甲斐なかった。
「…ありがとう。」
「え?」
「ちゃんと全部話してくれて。」
「なのにごめんね。」
泣かないって決めてたのに。
…ダメだなぁ、と言って笑うトモコ。
気丈に振る舞うトモコの姿に、俺は初めて強い人なんだって思った。
俺だったらこんな時に笑ったり出来ない。
相手を責めて、傷付けて…泣かせることしか出来なかったから。
「今日は来てくれてありがとう。」
そう言って俺に見せた笑顔は、本当にキレイで。
…正直、少しだけ後悔した。
「アキラくんが来てくれて、ちゃんと言ってくれたから今度はカオリと向き合える気がする。」
少し落ち着いたのか、トモコは静かに話だした。
「本当言うとね、すごい怖かったんだ。」
…何が?
トモコは、俺の問いかけに微笑みながら答えた。
「アキラくんがカオリと仲良くなっていくのが。」
…どうして?
「カオリとアキラくんて似てるじゃない?」
そうかな…と曖昧に言葉を濁す。
「だから、もしアキラくんが好きな相手がカオリだったら敵わないな…って思ってたの。」
─え?
「でもね、アキラくんにちゃんと気持ちを伝えられて、ちゃんとアキラくんの気持ちが聞けてスッキリして。」
「だからこれからは応援するね。」
─はい?
目の前でめちゃくちゃ良い笑顔で俺に笑いかけるトモコ。