nao 55
あ、いちおう連絡来たから無断じゃないか。」
と笑う顔にも元気がなくて。
「話も聞いてくれないから、言い訳も出来ないしさ…」
「じゃ、そのこと誰から聞いたんだ?」
「ナオキ。」
─えっ?
「ナオキはあたしだってこと分かってないと思うけど。」
「…どうゆうこと?」
アイツの名前が出てから、急に余裕がなくなったのが分かる。
「ナオキに相談されなかった?
好きな子に恋愛相談されたって。」
あぁ。
ったく俺の気もしらないでアイツは…
「なんでその子が悩んでるか、は?」
そう言えば聞いてなかったな。
俺は首を横に振る。
「その子、好きな人が友達と歩いてるところを見ちゃったんだって。」
「その友達に、その人の相談してたから余計ショックだったらしくて…」
─つまり、それがこの間の俺とカオリなわけ?
「ちょっと待って。」
─じゃトモコが好きな人って…
頭に浮かんだ考えを否定して欲しくてカオリを見ると、悲しそうな顔で頷かれた。
「…直樹は?
まだ気付いてないんだよな?」
─アイツには絶対知られたくない。
「…こんな時でもナオキなんだね。」
「悪いけど、俺にとって直樹の方が大事だから。」
カオリの赤い瞳を見つめながらハッキリそう言う。
「そっか…」
カオリは手元の紙ナプキンをいじりながら俺の質問に答えた。
「さっきも言ったけど、まだナオキは知らないと思う。」
「そっか。」
ホッと一息つく。
冷めたコーヒーに口をつけると、苦さが増しているような気がして。
思わず顔をしかめた俺に一向におかまいなくカオリは口を開く。
「誰が好きなの?」
ゴホッ
あまりにストレートな質問に、むせてしまって。
「…んなの、言えねぇよ。」
「急に聞いたら、意外と答えてくれるかと思ったんだけど。」
「…カオリはどうなんだよ?」
俺ばっかり焦ってるのが悔しくて、切り返す。
「トモコ。」
へ?
「あたしはトモコの事が一番大事。」
あ、そうゆうことね。
一瞬マジかと思ったぞ?
「本気だったら引く?」
俺の思いを感じたのかそう言うと、まっすぐに俺を見つめるカオリの瞳。
髪の色と同じ真っ黒な瞳は、昔博物館で見た黒耀石を思い起こさせた。
博物館の隅の方にポツンと飾られていたそれは、その空間における照明、人々の視線
…それら全てを独占しているように見えた。
何故だかそのことがフッと心によぎって。
「いいんじゃねぇの?」
「…好きなんだったらそれでいいじゃん。」
後の方は自分に向けて言い聞かせるように言った。
言ってから照れ臭くなって下を向いていると、
「ありがと。」
やっぱりアキラってイイヤツだね。