nao 52
この間無断欠勤したみたいなんだよね。」
「そんなこと初めてらしくて、みんな心配しててさ。」
「次の日に連絡があって、体調崩したからしばらく休みますって言ってたらしいんだけど。」
あのトモコが無断欠勤…
そりゃみんな心配するだろうな。
理由もなくサボるようなヤツじゃないだろうし。
「なぁそれって最近のこと?」
「もう一週間経つかな。」
一週間前って、…あれ?
「もしかして俺の誕生日祝ってくれた次の日?」
あの日、たしかトモコのような女の子を見かけた気がした。
トモコだったのか?
あの日、何かあったのかな。
「最近はバイト来てんの?」
「それが来てないんだよね。」
どうしたんだろ…
香にでも聞いてみようかな。
…
俺アドレス知らねぇよ。
直樹なら知ってるんだろうけど…
「なぁ、カオリの連絡先教えてくんない?」
「香の?知らなかったっけ。」
赤外線で送信してもらう。
香の名字って中野っていうんだ…
メールを送ろうとアドレスを見ていた俺の目がある一点で止まる。
─BLUE
その後に続いている数字は誕生日か何かなんだろう。
…あの人もアドレスに使ってたよな。
俺のイメージでは薄いピンク、桜の色なのに。
女の子らしい色は似合わないから、と言って普段は寒色系の服しか着てくれなくて。
それが唯一の不満、だったかな。
たった一文字で記憶とリンクするんだからすごいよ。
─メール打つんだったよな。
直樹も誰かに連絡を取っているらしく、忙しそうに指を動かしていた。
─誰にメールしてんのかな。
気になってしまって。
カオリに打ったメールを、よく確認もせずに送ってしまった。
俺がメールを送り終わってもアイツは携帯とにらめっこしていて。
今一番側にいるのは俺なのに、すごく遠くにいるみたいだ。
伝えたいことはいっぱいあるのにな。
ことばに出来ない思いをしまえなくなったらどうすればいいんだろ…
─テーブルが振動音を伴って揺れる。
カオリ、か。
携帯を開いてメールを確認する。
from:中野香
ダレ?
…名前書いてなかったっけ。
高橋明です。と返信する。
from:中野香
どうしたの?
話したいことがあるから会えないか?とメールを返す。
from:中野香
それじゃ、18:00にLUCEで。
了解、とだけ書いて送信する。
直樹には聞かせられない話になるだろうから、「LUCEで」と言われて少しホッとした。