nao 51
肩まである黒い髪が振り返った勢いでバサッと揺れた。
「「どうしたの?」」
一瞬、カオリとナナコの声が同時に聞こえた気がした。
もちろん俺の数メートル先にいたのはカオリだけで。
「あのさ、…」
─昨日、どうしてあんなこと聞いたんだ?─
「…バイト頑張ってな。」
やっとそれだけ言うと、カオリはありがとうと言って歩いて行った。
バイト先に向かって歩いて行く後ろ姿があの人と似ていて。
カオリの姿が見えなくなるまで、俺はその後ろ姿を見送っていた。
結局何も聞けなかったな。
…聞いてみたいことはいっぱいあったのに。
度胸ねぇな。
バイト先に顔を出そうかと思っていたけど、やめにして家へと向かう。
カオリにまた会う勇気がなくて。
なんでナナコを思い出したんだろ。
あの人も黒髪だったから、かな。
地下鉄の駅で電車に乗り込むトモコを見た気がしたけど、ボーッとしていた俺には確かめる余裕がなかった。
─直樹からトモコのことを相談されたのはそれから1週間後のことだった。
テストも近付いてきて、レポートやらテスト勉強やらで何かとアイツと顔を合わせていて。
だから、直樹の様子がおかしいことは、その日の朝から気付いていた。
「あのさ、」
直樹が重い口をやっと開いたのは、その日の授業で出されたレポートをどこでやるか?と相談していた時だった。
「ん?」
「友達の話なんだけどさ。」
「深刻な話?」
だったら場所変えようぜ、と言いかけて口を閉ざす。
「ソイツさ、気になってる子がいるみたいなんだけど、その相手の子が最近沈んでて。」
「思いきってメールしてみたんだけど、その子に恋愛相談されたらしくて…」
こうゆう場合、明だったらどうする?
…。
どうするも何もなぁ。
つまりあれか?
トモコが別の男のことで悩んでるって直樹に相談したわけ?
そしてその相談を、お前を好きな俺にする。
勘弁してくれよ…
そんな顔して見るなって。
はぁ。心の中で溜め息を吐く。
「…とりあえずさ、落ち込んでるなら励ましてみたら?」
「で、いい話相手から気になるヤツになってきゃいいじゃん。」
なるほど、と頷く直樹。
「男側からのアドバイスってけっこう役に立つらしいぞ?」
と言って直樹の方を見る。
アイツはなんだか知らないけど俺の言葉に感心したようで。
尊敬の眼差しを返された。
「…明ってすごいね。
すごく参考になったよ。」
と言ってから直樹は慌てて、
「あ、友達の参考になると思うよ。」
と言い直した。
いや、隠したいならそれでいいけど…バレバレだぞ?
心の中で突っ込んでから、どういたしまして、とだけ伝えた。
「でも、なんでその子が悩んでるって分かったんだ?」
「それがさ、バイト先が同じなんだけど。