nao 43
太陽の光が入るように天井にはガラス窓が填め込まれていて、その光を浴びながら机に向かっていると、バンクーバー図書館を思い出す。
建て直されてまだまもないというその図書館は、日本では考えられないほど大きくて。
中でも俺が気に入ったのが誰でも利用できる学習フロアだ。
楕円形の建物に囲われるように設置してある机の数は、大学の自習室よりも遥かに多くて。
学生から社会人まで、幅広い年代に好まれているようだった。
あの人を待ちながら、俺はあの図書館に一体どのくらいいたんだろう。
帰りには必ず二人でカフェに寄って。
当たりが出ないか紙コップの縁をめくってたっけ。
なぁ、俺こんなにお前のこと思い出しても平気になったぞ?
きっとそれはアリサだったり直樹のおかげなんだろう。
…きっとビックリするだろうな。
俺の、今の好きな人のこと話したら。
普段は落ち着き払ってるあの人が、俺の話を聞いた時の驚いた表情を想像すると、自然に笑みが溢れた。
一段落したら手紙をだそう。
今の近況報告と、元気にしてること。
菜々子、元気にしてるか?
俺は元気にしてるぞ。
─────────
久しぶりにアイツに電話をかける。
バイト中か?
出ないな…
「あ、直樹?」
今日久しぶりに飯でも食いに行かないか?
と言いかけたら、お留守番サービスらしい。
しょうがない、アリサで我慢するか。
何度かのコール音に続いて、こちらも留守番電話サービスだ。
さすがに朋子を誘う気にはなれなくて、コンビニで済ませようかと財布を手に取ると、電話が来た。
直樹?
「もしも〜し」
「明?ちょっとさ、今からアリサちゃん家来てよ。」
俺が何も言わない内に、アイツは、待ってるから!と言うと電話を切ってしまって。
珍しく積極的だな…
それでも、アイツからの誘いを俺が断れるわけもなく、半袖のシャツにワークパンツを履いて出かける。
アリサの家は、俺のアパートから歩くと15分くらいのところにあって。
アリサの家に直樹がいることの不自然さに気付かないまま、玄関のチャイムを鳴らした。…
…
…?
俺、チャイム鳴らしたよな?
「入るぞ〜?」
ドアノブを捻るとあっけなくドアが開いて、なんだか逆に、入るのがためらわれた。
「…アリサ?」
いないのか…そう呟いてドアを閉めようとしたら、中で物音がして。
とっさに色んなことが頭をよぎった。
─もしかしたら強盗に捕まって、さっきの電話は助けを求めてたのかもしれない、とか。
─買い物に出かけている間に泥棒が入ってるのかもしれない、とか。
もしそうだとしたら、捕まえなきゃだな。
2、3秒考えた後で部屋の奥に声をかける。