nao 37
誰かに側にいて欲しい。
誰かに、じゃなくてアイツに、なのかな。
直樹、今日もバイトかな。
─今日もトモコと一緒なのかな。
耐えきれなくなって、頭を窓に打ち付ける…
「ッ……てぇ。」
…バカみたいだ、俺。
動く気になれなくて。
しばらくそのまま外を眺めていた。
、…携帯?
着メロなんてみんな一緒だから、鳴っただけじゃ誰か分からなくて。
何故だかはやる気持ちを抑えて携帯を取りにロフトに上る。
二つ折りの携帯を開いて通話に出る。
「もしもし」
「直樹?」
「だから出る前に確認しようよ。」
電話口から聞こえてくる声で、直樹が苦笑しているのが分かる。
「…どしたよ。」
「今さ、バイト帰りなんだけど。
明も一緒にご飯食べないかな〜と思って。」
優しいっしょ俺、と笑うアイツ。
「…あ〜、実はさっき食べたばっかでさ。」
「マジ?そっか…」
…そんな声出すなよ。
「…デザートなら食べてもいいぞ?」
何言ってんだよ。
…後悔してもしんないからな。
「じゃ、先にLUCEに行ってるから来てな。」
LUCEって…、オムライスが旨い店か?
直樹に一応確認すると、そうだと言われた。
電話を切って、シャワーを浴びに行く。
頭から熱いシャワーを浴びると体に気力が湧いてきた。
シャワーを止め、タオルで体を拭く。
頭から垂れる滴がウザったい。
乾燥機みたいに全身が三秒で乾くマシーンでもあれば売れるんだろうな…
頭を振って自然乾燥に任せることにして、服を着る。
外に出ると日差しが強くて、さっきまでの雨がウソみたいだ。
財布と鍵をポケットに入れて歩き出す。
「、携帯…」
忘れたけどまぁいいか。場所は分かってるしな。
車が水溜まりの水を弾くたびに、俺は店に入れる程度にジーパンを水しぶきから守らなきゃいけなくて。
やっと店に着くと、窓際の席にアイツが座っているのを見付けた。
思わず嬉しくなって早歩きになった俺の足が、急に止まる。
分かってたんだ。
一人じゃないことは。
ただその時のアイツの笑顔が、キレイ過ぎて。
その向かいに座っているのが俺じゃないことがすごく嫌だった。
─アイツのその顔を俺だけのものにできたらどんなに幸せだろう。
直樹─
雨が、また降りだしてきて。
そのまま店には行かずに来た道を引き返す。
雨はどんどん激しくなっていって。
こんなことだったら、髪乾かさなくても良かったな。