nao 36
本当、アリサが気付かなくて良かった…
トモコに仕事を教わるアイツ。
トモコと真面目な顔で話すアイツ。
トモコの冗談に笑うアイツ。
思い出しても胸の真ん中がチリチリする。
俺のここには何か住んでんじゃないだろうか?
俺の意思とは関係なしに渦巻く感情の波に、その内、巻き込まれて帰ってこれなくなるんじゃないだろうか。
─どうして、
─そんなこと言うの?
─なんで…
─何にも言ってくれないの?
そんなつもりで言ったんじゃない。
ずっと一緒にいたいから、
知っていて欲しかっただけなんだ。
待って、
目が覚めると俺は泣いていて。ロフトの上で膝を抱えてうずくまる。
去年の今頃もこんな感じだったな。
なぁ、どうして信じてくれなかったんだ?
俺、本当にあの時お前のこと─
溜め息を一つ吐くと、少し気分が落ち着いてきた。
─ザー…
雨に濡れる女
髪の長い女
手には紙袋を持って
傘、今はさしてるかな。
また眠りにつける気がしなくて、下に降りる。
ザー…
カーテンを開けると今日も雨で。
窓に寄りかかるように座って外を眺める。
いったいどこからこんなに降ってくるんだろう。
あの時も、雨だったな。
ビショ濡れで、お互い。
いつもならそんなこと笑い飛ばせるのに、あの時はできなかった。
─ザー…
風邪、引くから中入ろ?
なぁ、
もう無理なのか?
顔をあげた彼女の顔は雨ではないもので濡れていて。
それを見ただけで胸が締め付けられた。
何を言っても届く気がしなくて。
時間をかければきっと分かってくれると思ってた。
俺の世界からいなくなる日がくるなんて思ってもなかった。
目を開くと外はまだ雨で。
今この時が現実なのか、昔のことなのか分からなくなる。