nao 35
余計なことは言わなくていいから、と言う意味を込めてアリサの腕を引っ張る。
アリサはまだ何か言い足りなそうだったが、直樹が戻って来たので口を閉じた。
「お待たせ致しました、コーヒーとアイスコーヒーになります。
お会計はご一緒でよろしいでしょうか?」
「いいよ。あとコイツに砂糖2個付けてやって?」
すっかり店員モードになった直樹をポーッと眺めるアリサに、会計は無理だと感じた俺は、二人分の代金を払ってトレーを持ち、席に着いた。
「アリサ?」
まだ目がハートのままのアリサの前で手を振る。
まったく反応が起きないアリサに溜め息をつくと、アイツがいれてくれたコーヒーを一口飲む。
どこの店で飲んでも同じ味なんだろうけど、いつもより旨く感じた。
「どう?
俺がいれたコーヒー。」
振り向くと渡し忘れたガムシロップを持って直樹が立っていた。
「ん、まぁまぁだな。」
と俺がすまして言うと、
「すっごく美味しかったです!」
アリサが飲んでもいないくせにそう言った。
「ありがとう。
こちらお持ちしましたのでお使いください。」
ニコリと笑って、持って来たガムシロップをテーブルの上に置き、カウンターの中に戻って行くアイツ。
はい。と返事をするアリサに、俺は笑いをこらえるので精一杯だった。
直樹が見えくなったのを確認するとアリサがキッと俺を睨んだ。
「何がおかしいわけよ?」
「…だって、お前飲んでないのバレバレだから。」
「えっ」
俺が指を指したテーブルの上のモノに目をやると、アリサはやっと気付いたらしくて。
バカだな〜と言うと、落ち込んだみたいで。
帰り道もいつもより口数が少なかった。
─アリサが直樹の気持ちに気付かなくて良かった…
コイツまでヘコムとこは見たくない。
でもいつかは知る日が来るんだよな。
その日を思うと、複雑な気分だった。
アリサ、どうすんだろ。告白すんのかな…
その時俺はどうすんだろ。
アリサに言うのかな?
その時のことなんて、その時になんないと分かんないよな。
一人暮らしの嫌なとこは、家に帰った時に部屋が暗いことだ。
冬はそれに寒さが加わるから尚更孤独を感じる。
梅雨のこの時期は部屋がムシムシしていて。思わず窓を全開にする。
コタツもそろそろ片付けないとな…
コタツを見る度そう思うのだが、アイツが泊まるかもしれない、と思うと躊躇ってしまう。
アイツ頑張ってたな。
アリサに気付かれないように、アイツを目の端で追っていた俺は、アイツの視線の先に気が付いた。