nao 29
「見んなよっ」
「…照れてんの?」
「明って時々可愛いよね。普段イカツイのに。」
そう笑いながら言うアイツに見とれてしまって。
「これからカワイイ路線でいくからいんだよ。」
思わずそんなことを言ってしまって。
本当お前といると調子狂うんだよ…
ボソッと言ったつもりだったのに聞こえてたらしい。
「なぁ、とりあえず飯食い行かね?」
二人っきりでいるこの状況から抜け出したいのもあったが、俺は本当に腹が減ってきていて。
思えば朝から何も食べてなかったし…
壁に架けてある時計を見ると、もう少しで12時を回るところだった。
「あ、俺そしたら行きたいとこあるんだけど…行ってもいい?」
いい?ってお前に言われたら俺が断れないの知ってるだろ、さては。
惚れた弱味ってヤツなのかな。
キャリアケースにルーズリーフと筆箱を、財布と携帯はポケットにそれぞれ入れる。
アイツを先に外に出してから靴を履き、外に出て鍵を閉める。
そろそろスニーカーも買わなきゃだよな。
また日雇いのバイトでもしようかな。
「で、どこ行くわけ?」
アイツがどこかに行きたいなんて言うのは本当珍しくて。俺はついそう尋ねた。
「こないださ、ちょっと寄ったんだけど。中には入れなくて。」
「そこのオムライスが美味しいらしくてさ。一回来てみたかったんだよね。」
俺はアイツが誰と行ったのかに気を取られていて、何処に行くのかまで気が回らなかったんだ…
「ここなんだけど…ラッキー、まだ混んでないっぽい。」
この間来た時混んでて入れなかったんだよ。と言うアイツに促されて店に入るまで、俺はここが何処だか分からなくて。
やっとそのことを思い出したのは、席に着いた時だった。
─あれ?
俺、この間もこの席に座ったよな。
「あっコレだ、オムライス。俺これにするわ。明は?」
「…カルボナーラ」
「よくあるって分かったな?…あ、すみません。」
明が注文してる姿も、この前のトモコに見えてきて。
いつ二人で来る予定だったんだろう。