nao 22
右手が誰かに引っ張られる。
正確に言うと、俺の右腕のジャッケッとの肘の部分が誰かに引っ張られた。
「ナニ?」
俺はこの時すごく機嫌の悪い顔をしてたと思う。
「あ、あの…コレ。」
振り向いた先にいた女の子は、急いで俺の手に何か物を乗せると、走って出て行ってしまった。
「なんだぁ?」
まったく意味が分からなくて、とりあえず手に乗せられた物を眺める。
掌の上にあったのは、シルバーのごついリングだった。
あれ?これって…
どこかでみたことがある。
あ、
アイツの!
そこまで気が付くと、俺は外に駆け出した。
外に出るともうあの子はいなくて。
なんであの子がこれを…?
店の入り口で立ちすくんでいると、今度は左腕を引っ張られた。
「お客さん、困りますよ。」
苦笑いする店員。
俺の手にはオニギリが握られたままだった。
──────
なんとか事情を説明して、店の裏側から解放してもらうと、なんだかドッと疲れが出た。
きっと今日は仏滅だな。
こんなに色んなことがあった日も珍しい。
─ だからね、悪いことがあったら、きっと良いことが起こるの。
だから負けないで。
一緒に頑張ろ、明?
「…んなこと言っても、お前もういないじゃん。」
そう呟いてから、自分がまだ外にいたことを思い出す。
思わず辺りを見渡すが、誰も俺に注意を払っている人はいなかった。
それでも気まずくて、少し早足で家へと向かう。
なんでいつもあんなに前向きだったんだろ。
俺も見習わなきゃ、だよな…
ところどころに出来た水溜まりを踏んずけないようにして歩く。
ガキの頃は、よくワザと靴を泥だらけにして帰ったもんだ。
汚くすることが仕事のように思ってたあの頃。
お袋は大変だっただろうな…
今度帰ったら、何かしてやろう。
きっとすごく驚くだろうけど。
なんとか汚れずに帰ってくると、台所に立つ。
手を洗ってからヤカンを火にかけた。