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片思い
恋愛リレー小説 - 初恋

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片思い 8

「自覚はしてるんだ」
「当然だよ。これでも一応17年の付き合いだからね」
「嫌味のつもりなんだけど」
ムキになって突っ掛かってくる彼女に思わず吹き出す僕。
「何よ」
「何でもないよ」
「嘘、絶対私の事馬鹿にしてる」
「そんな事無いよ」
そこ迄言うと時間を確認する振りをして会話を止める。そして−−
「それじゃあそろそろ行こうか−−香奈」
効果覿面。一気に顔を赤く染める城山。
その予想以上の反応に再び笑みが零れた。


「どれにしようか……」
と言っても今はそこそこ話題の恋愛映画が上映期間中だ。
話に聞く限りストーリーはベタ過ぎるし、出演している俳優もイマイチ−−まあ、だからと言って他に無難な選択肢がある訳じゃないけど。
「……うん、コレにしよう」
幾つか並ぶパンフレットを前に少し考え込む僕の機先を制し城山が手に取ったのは例のとは別の映画のモノ。
「……本気?」
「もちろん」
彼女が選んだのは僕が以前から見たいと思っていた映画。だけど内容に少し問題がある。
理不尽且つ極限的な状況下に置かれた人間の心理を描いたサイコホラー−−どう考えてもデートで見るべき代物じゃない。
「こっちなんてどう?僕結構こういうの好きなんだ」
内心の動揺を表に出さない様出来るだけ自然に好きでもない恋愛映画を勧める僕。けど、
「嘘ついても無駄だよ。前もって御崎君に好みは聞いてあるんだから」
すぐに見破り心持ち背を反らし勝ち誇った様な顔をする城山。
流石は生徒会役員を務める才女。事前の調査を怠りはしない。
「−−それに」
「それに?」
「いくら何でもコウちゃんが恋愛映画は無理あり過ぎだよ」
今度は一転、軽く体をくの字に曲げて笑い出す。
成る程、確かにそれは言えてる。
 

結局僕等が観たのは城山が選んだ、僕好みの映画。
少し説教臭いのが難だったけれど所々ゾクリとさせられる場面があってそれなりには楽しめた。
だけど、そんなモノよりも気になったのが隣で終始興味無さそうにスクリーンを眺めていた人物。
綺麗や可愛いより凛々しいと言う方がしっくりくる端正な顔立ち。スラリとした手足が引き立てる細身の長身。
これだけでも充分なのに更に彼女の場合は何でもソツ無くこなし、性格にも大きな欠点は無い。
完璧、とまではいかないけど十分凡人とは一線を画している。
そんな彼女が僕の些細な言動に一喜一憂して、僕の好みに合わせて、僕の事を理解しようとしている。
意外ではあるけど悪くないと思う。確かに嬉しいし、何処か僕の価値が上がった様な気にもなる。
だけど、それ以上に違和感を感じてしまう。何故僕なのか、と−−


「ねえ、どうしたの?」
目の前のコーヒーに中々手を付けようとしない僕に軽く眉をひそめながら尋ねる城山。
正直に「君の事を考えていた」と答えたらどんな顔をするんだろう。
「……何でもないよ」
ふと浮かぶ悪戯心にも似た好奇心は勿論、実行には移されない。

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