All right 25
悟は愕然とした。
明希を守ると、確かにそう決めたはずなのに。
それなのにまた逃げようとしていた。思考を停め、考えることを放棄して。それではさっきと何も変わらない。
そのことを、他でもない明希本人によって気付かされた。こんな状況でも、まだ自分は明希に支えてもらっている。
いつも気が付けばそこにいてくれた、変わらずに隣にいてくれる人に。
だから、強く奥歯を噛み締める。
……情けない。
罪悪感もあるが、そんな自分でもできることがあるはず。それだけは譲れないものが。
悟は顔を俯かせ、気持ちを整えるために、数回、深呼吸をした。
そして、
「……ごめん、明希」
「……悟……」
その言葉を聞いて、明希は悲しそうな顔をした。
自分の言ったことが伝わらなかったのだと、寂しい気持ちになる。
しかし、再び顔を上げた悟の表情は、先程までとはまったく違うものだった。
明希をまっすぐと見つめるその瞳から、迷いの色が消えていたのだ。
「それと……ありがとう」
ただひと言。
それが意味するものは確かに伝わってきた。涙腺がゆるんで、今にも雫となりこぼれそうになる。
しかし悟を心配させまいとそれを堪え、代わりに何かを言おうと口を開く。
「――――」
だが声は出ず、は、と震えた息を吐く。
視界が滲む。
まずいと思って再び何かを言うため咄嗟に息を吸えば、それは小さな嗚咽になった。
「なっ、明希、ど、どうかしたのか!?」
明希は慌てる悟にも何も答えられずに、ただ沸き上がるものを押さえ込む。
悟はまた明希が発作を起こしたのだと思い、明希の肩に手をのせ、状態を伺った。
だが、そこで初めて気付く。
彼女の肩が震えていることに。
「明希……」
スッ、と悟の腕が動く。
そして、明希を抱き締めようとしたその時、
「あ、明希さん!悟くん!」
「!」
抱き締めようとしていた腕を素早く戻すと、悟は声がした方へ振り返った。
「やっと見つけた〜……。良かった、見つかって」
そこには、安堵した笑みを浮かべている流馬がいた。
なんとも間の悪い男である。
「二人とも大丈夫?」
「あ、あぁ……」
「……」
流馬の問い掛けに答えたのは、悟だけだった。
しかし、流馬は全てを察したようで、何も言わなかった。
ただ一言、
「戻りましょう、茜さん達の所に」
と言った。