アパートの部屋にテレビがなかったけど、喫茶店にはあった。テレビを見たくて、なかなか帰らないんだけど怒られなかった。料理とか運んでいてひっくり返したらいけないと思って、ゆっくり運んでるんだけど、それも怒られなかった。
喫茶店の店長さんは左足の膝が悪くて、動きまわるのは大変だったから、拭き掃除とかお客さんにお料理を運ぶのも、それまでは店長さんが一人でやってたんだけど。オムライスは今でも作れるよ。珈琲は店長さんがドリップしたほうがおいしかった。
今はもうその喫茶店はなくなって、建物も壊されて、コインパーキングになっちゃってる。
喫茶店に通ってる常連さんの中にバチプロの人がいたの。整理券をもらったら珈琲を飲みに来て、閉店まで打ち切った時は来ないけど、途中で見切りをつけたら、食事に来てた。ただ、他の常連さんたちみたいにつるんでなくて、いつも一人で。
休みの日にそのお客さんがいるパチ屋、あ、パチンコ店のことをよくパチ屋って常連さんたちは言ってたんだけど、行ってみたの。なんでって、そのお客さんに会いたくて。
お休みの日は会えないから、パチ屋に初めて行ったら煙たくてうるさかった。台の音、玉を洗う音、有線の音楽、遊戯台の前でみんなタバコを喫ってた。でも、アパートの電車の音ほどじゃなかった。
パチプロの人の右隣の台の前に座ったら「そこは空き台じゃない」って。上皿に煙草の箱が置いてあったのね。わからないからもたもらしてたら、トイレにでも行ってたのか、その遊戯台で打ってたお客さんが帰ってきて、カードがないって言った。
お金を投入口に入れると、遊戯台の玉貸ボタンを押すと玉が上皿に出てきて、投入した金額の残高の分だけ玉が出てくる仕組みなの。
返却ボタンを押すとカードに記録されて出てくるから、移動したり席を離れてトイレに行くときは、残高の残ったカードは持っていかれないように、返却ボタンを押して持っていくんだけど。
カードが台からなくなったって、店員さんも呼んで騒いでた。そしたらね、パチプロの人が「その子は盗ってない。タバコケースの中」って店員に言ってくれたの。タバコケースにカードを入れたのを忘れてたって、騒いでたお客さんは、その場からいなくなっちゃった。わざと騒いでたのかもしれないけどね、ちょっとこわかった。
今はパチ屋もきれいで、店員さんも親切で優しいんだけど。お客さんが遊戯を止めて玉を計数機にざーって流してレシートを渡してくれるんだけど、９９９９玉だったとするじゃない。あと１玉で一万発だから、通路で１玉拾ったのを、店員さんが見てたらしゃがんでるお客さんを平気で「出てけ、もう来るな」って蹴飛ばしてたりしてた。今じゃ考えられないんだけどね。拾った人も悪いんだけど。