レースクイーンの悲劇 6
自分以外人影のない、少し薄暗い照明の廊下をトボトボ歩き、建物の入り口に差し掛かる。
「おや、まだ帰っていなかったのかい」
「……!!」
その声を聞いて栞はビクン、と背筋を伸ばし、恐る恐る振り向く。
そこには幸成が立っていた。
「あっ、あの、すみませ…ちょと、と、トイレに…」
「ああ、慣れないことで緊張しちゃってたんだね」
「いっ、いえ、そんな…」
撮影が終わって結構時間は経つが、幸成は怪しむ様子もなく爽やかな笑顔で栞に話しかける。
「もうかなり暗くなったし、一人で帰るのも心配だからね」
「そっ、そんな」
「僕もそろそろ出ようと思っていたんだ。家まで送ってあげようか」
「えっ。そ、それは…」
恐縮する栞だが、幸成に断ることもできず、そのまま彼の車がある地下駐車場に向かうことになった。
「こっちだよ」
駐車場に並ぶのは本やCMでしか見たことのない高級外車や国産の高級車ばかりでキョロキョロする栞に、幸成は自分の愛車の場所を教える。
彼の愛車もドイツ製のシルバーのサルーンだ。
「住所は…」
「えっと…………です」
「了解」
カーナビに目的地を入力すると、幸成がゆっくりと車を発進させる。
父親や母親の車とは違うシートの座り心地に戸惑いながら、栞は流れる夜の街並みを横目にしていた。
「栞ちゃんも、紫苑ちゃんも素晴らしい、ぜひ僕の友人に勧めたい逸材だと思ってる」
「そっ、そんな…」
「彼も優しくてしっかりしていて、安心して任せられるいい男だから栞ちゃんも前向きに考えてほしい。栞ちゃんほどの素材の持ち主なら、きっとグラビアで天下を取れると僕は思ってる」
「………」
力説する幸成の言葉に、栞は何も言えず俯いてしまう。
やがて車が郊外に入ると、人通りの少ない道で幸成が停車させる。
「あれっ?ここは…」
操業してない工場や人気のない物流倉庫が立ち並ぶ地帯。
当然、栞の自宅近くではない。
「あの………っ!!!」
幸成は自身のシートベルトを外し、身体を栞のほうに向けて両手を栞の胸に伸ばす。
「ちょ、ちょっと何をっ!」