僕とママ 16
…ひどい日曜日になってしまったと思う。
わたしは裸のまま気を失っている和也少年を、切り裂かれた衣服のほとんど全裸の姿で見下ろしていた。
思えばかわいそうな子なのだ。
姑はもちろん身内にも、父親が風俗店のオーナーであることは伏せてある、と、この子の父親は、いつだったか散々わたしをオモチャのように扱った後、煙草をふかしながら話していた覚えがある。
細心の注意を払っていたらしいが、どこからかその話を聞きつけた、マセた同級生たちにずっといじめられていたのだという。
わたしがそういう職業に就いていたことは、息子である裕樹は知らないはずだ。
知っていたら、あるいは、この三宮の家族以外にそれを知り、息子をいじめるような人物がいたとしたら。
傷ついたあの子は、この歪んだ少年のようになっていたかもしれない。
友もなく、暇さえあればウチにあがりこんで、年下の裕樹をからかうか、いじめられて傷ついた心をわたしにぶつけるか。
悩みを受け止める役割のはずの父親はもちろん、母親の晴美さんですら、いじめの原因である風俗業従事者だったのだから、この子も素直に悩みを打ち明けられなかったろう。
この子の抱える闇を思うと、胸が締め付けられた。
同い年の集団に溶け込めず、自分より立場の弱い者にはものには極度に攻撃的な、歪んだ美少年。
でも今は、この子を哀れんでる時間など、わたしにはないのだ。
裕樹を探さなきゃ。
わたしはズタズタの衣服を脱ぎ捨てると、部屋干ししたままだった衣類の中から、息子とウォーキングするときのUVカットのバーカーと、替えのブラとパンティ、ヒザ丈の黒いスパッツを素早く着込む。
動きやすい服装の方がいいと思ったのだ。
最悪は警察に行かなくてはいけないかもしれないが、そうなったときは覚悟を決めるしかないだろう。
わたしは裸足のままスニーカーをつっかけて、目的の場所へ駆け出した。
同じアパートのすぐ隣。
三ノ宮の家族の家へ。
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ピンポーン。
わたしはカメラ付きドアホンのボタンを叩くように鳴らす。
『はい……アラ、麻理子さんじゃないの。いま開けるね?』
のんきな晴美の声と共に、ガチャガチャと玄関がひらかれる。
『…ああ………い、いやっ』
「!?」
ドアがあくや否や、廊下の奥から悲鳴が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと?」
「邪魔だからどいてッ!」
わたしは晴美を押し退け、土足で隣家のリビングへ駆け込んだ。
バアン!!
わたしは勢いよくリビングののドアを開け放った。
『……ああ、止めて……やめて、隣に息子がお昼寝を……ンアッ、そ、そんな、そんなところ……』
『…ヘヘ、こんなに濡らしてそんなことを言われたって、誘ってるようにしか見えねーぞ、奥さん?』
『………アン、……ンアッ、アッ、い、イヤよ………挿入れちゃ、いれちゃ駄目ェ』
『クウウッ……いきなり締めるんじゃねえよ麻理子、チョッと出ちまったじゃねえか……しかし、さすがウチのリピート率ナンバーワンだな?』
「………」
大型の、液晶テレビ。
全くアングルが動かない、少しピンボケの目立つ画像。
見覚えのある内装、窓、家具。
「よう、久しぶりだな麻理子」
数年前に隠し撮りされたレイプの光景を映し出す液晶画面を背中に、その男………
三ノ宮正和が、タバコの煙をゆっくりと吐き出した。