お義父さんは男の娘! 17
それを一気に解決する策が、晶を本宮家、つまり響が引き取るという事だったのだ。
『だが、まさか晶君を再婚相手にしたと奏に吹き込んでいたのには驚いていたよ』
「フフッあの子をからかうの楽しいもの。もっとも、再婚してないってネタばらしは今日しちゃったんだけどね」
『奏が晶君を気に入るかも運任せだったからね。……何にせよこれでようやく決着をつける事が出来るよ』
「てっちゃんが亡くなってからもう十数年くらい経つもんね……早いものよ」
響はしみじみと今までの過去の思い出に浸る……が、途中である事に気づく。
「そういえばあまり深く考えてず掛けちゃったし長電話しちゃったけど、この電話大丈夫なの?盗聴とかされてないかしら」
『ああ、それについては問題ない。この電話の通話記録の内容や発信者及び受信者の携帯の内容は全て暗号通信になる。対テロ組織用に試作された特殊電話通信回線を使用しているから逆探知も盗聴も今の技術ではまず不可能だ』
スラスラと口達者に語る栄司。響は言葉を聞き取るので精一杯だった。
「ホントすごいわね、あなたって」
『お褒めの言葉をありがとう。愛する妻、響よ』
「嘘臭い…」
『私は君に対しては何時でも正直だよ?常にオープンさ』
「……切るわね。長話が過ぎたわ」
『そうだね。それでは良い夢を、愛しの妻よ』
「ええ、またね…」
こうして久しぶりの元夫婦の電話は終了――しなかった。
「ねぇ。切る前に一つだけ私と約束して」
『ん、なんだい?』
「全部やり遂げたら……必ず私の元に帰って来て。約束よ?」
『君は最高に可愛い女だな。しかしだ、その言葉は一般的常識では死亡フラグという不吉なカテゴリに登録されているんだよ。それを承知でその告白を選んだのなら君への認識を改める余地があると考えるが』
「……あなたの一般常識って、明らかに私の中の常識とは違うと思うんだけど」
『ハハッ今更かい?』
「はいはい分かったわ、私が悪かったわよ。おやすみなさいあなた」
『ああ、おやすみ――』
「そういえば話の中でダジャレ言ってなかったけど忘れてたの?」
『しまったぁぁ!私とした事がなんたるミスを!…ええい、ならば最後にに言おう!ダジャレを言うのは誰j――』
ピッ
「そういう所が大嫌いなのよ。…正直だけど肝心な事は上手く話をはぐらかす所がね」
呆れたような表情で元夫の不満を口にしながら携帯をしまう響だったが、口元が少しばかり緩んでいたという事を本人は知らない。
なんだかんだ言っても響は栄司を信頼して待ち続けているのだ。
ピューーッ
(うわ寒っ!体も冷えて来たしそろそろ家に戻らないとね)
響は吹いて来た夜風で冷える体を震わせながら玄関のノブに触れた。
開ける直前になって響はある事を思い出す。
(あっ、そういえば二人は私が外に出てたのを多分知らないのよね。……ちょっと驚かせてやろうかしら)
響は出て来た時のように気づかれないように静かにドアを開けた。
玄関で靴を脱ぐと抜き足、差し足、忍び足とまるで忍者のようにそろり、そろりと気配を殺しながら家の中に侵入。これから驚かせてやる事を結構ノリノリで楽しみながらやっていた。
ちなみにこの技術はグラビア時代に芸能記者達からの質問攻めなどから逃げ出す際にと響の先輩のグラビアアイドルから教わったものらしい。噂ではその先輩はくの一の末裔だとか、ないとか……。
響は久々にも関わらず俊敏な動きで、あっという間にリビングの前までやって来た。
(典型的だけど、いきなり出てきて驚かせた方が効果が大きいわよね)
リビングのドアに身を隠し隠ながら作戦を練った響は。
(あら、やけに静かね……)
リビングの様子を聞き耳を立てて伺った後に。
(はっ!?まさかHの後の余韻に浸っている……!?きっとそう、いや絶対にそうだわ!)
妄想で奏と晶がセッ○ス後と勝手に解釈した。
(見たい!いや、私は母親として見なければいけない義務があるわ!うん!)
そして心の中で勝手に納得し、
「奏、晶君!ただいまー!!」
テンション上げ上げで勢いよくドアを開けてリビング内に突撃した。
……が、返事は返って来なかった。
「って…あれ…?」
これには響も困惑し、改めて中をよーく見てみると。
「「すー……くー……zzz」」
ソファーの上で二人仲良く寝ている奏と晶の姿が。しかも、晶は奏に甘えるように腕に抱きついている。
「あらあら、可愛い寝顔させちゃって…」
クスッと笑みを浮かべ、響はソファーまで近づいて寝顔を堪能する。
(奏は確実に私似…。晶君は恵の学生時代にそっくりね…)
二人の顔を眺めていると響はある事に気づく。
(まるで娘が二人居るみたいね……っていうか晶君の肌が奏並みに綺麗だけど髭生えないのかしらね?)
気になった響は、晶の顎辺りを触ってみる。
肌は艶があってすべすべしていて髭の跡が皆無だった。
まつ毛も長く、顔も小顔で目もぱっちりで、気立てが良く家事もこなして…。
(晶君マジ女の子だわ。てっちゃんのDNAは一体どこに行ったのかしらね…)
強いて挙げるならば性別くらいだろうか。……最も、第三者から見たら分からない違いだろうが。
(でも……そんな貴方だから、きっと奏は好きになったんでしょうね)
親子だけあって、響は奏が晶を好きになった理由を大体は察していた。
「これからも奏をよろしくね、お婿さん♪」
晶の頭を軽く撫でる響。
「んぅ……」
「あ、起こしちゃった…」
「ん………zzz…」
撫でられて反応する晶。しかし、またすぐに夢の世界へ。
(一体どんな幸せな夢を見てるかしらね、晶君…)
「んぅ……奏ちゃん…お尻は駄目だよぅ……」
「えっ……?」