ツイン妻 9
「私だって、台所は主婦の城って言いたいんですけどね」
そう言いながら引き下がってるのは、サボりたいからじゃない。
結婚式までの一年弱、お風呂も別なら寝室も別。
僕とエッチがお預けの分だけこんな時間でスキンシップしないと夫婦の時間がないからだ。
「でも、今日の芽衣ちゃんの料理も美味しかったです」
「そうだね、愛情たっぷりって自分で言ってたけど、本当に愛情たっぷりで旨いんだよなぁ・・・」
そう言いながら天井に目をやり、ふと視線を結衣ちゃんへと移した。
そしたら結衣ちゃんと目が合い、僕達は同じ事を考えていたとお互いが気付いた。
「もしかして・・・」
「ええ、そんな気がします・・・」
芽衣ちゃんは多分、愛する人に料理を作っていたんだろう。
結衣ちゃんも父親の為に料理する事があったと言うが、芽衣ちゃんのはそれではなく愛する男に料理を出していた気がする。
そして、その男が・・・
その男が芽衣ちゃんをあそこまで開発した張本人だろう。
「芽衣ちゃんと再会したのは・・・霊安室でした」
結衣ちゃんがポツリとそう言う。
「お母さんが亡くなった時の?」
「はい、母と母の再婚相手が事故で亡くなり・・・私と芽衣ちゃんは数年ぶりに再会しました」
確か芽衣ちゃんは母親の方に引き取られたと聞いた。
だけど、何故今その話を・・・
「芽衣ちゃんは、全て無くなっちゃったって泣いてました」
あっと声が出かけた。
結衣ちゃんは何となく芽衣ちゃんが愛した男に目星がついたのだろう。
僕も話が見えてきた。
「もしかして・・・その再婚相手って・・・」
「父が亡くなったので、分からない部分もありますが・・・父が母と芽衣ちゃんの話題を避けてた風があったので・・・」
結衣ちゃん達の両親の離婚には、彼女に言えない色んな理由があったようだ。
だけど、言わないからこそ察した部分もあるだろう。
それに再会して理解した部分もあると思う。
「でも、心配しないで・・・過去は変えれないけど、芽衣ちゃんの事は大事に思ってるから」
「はい、それは信頼しています」
芽衣ちゃんは結衣ちゃんの知らないところで、かなり深い闇を抱えていたのだろう。それを僕らには見せないよう日々頑張ってる…とても強い子なのだ。
僕にできることといえば、結衣ちゃんも芽衣ちゃんも同等に愛してあげること、それだけだろう。
「お風呂も入れますよー、お義兄さん先行きます?それとも結衣ちゃん…」
「結衣ちゃん、先に入っておいで」
「はい、お先にです!」
一番風呂は家長からだとか言う考えは僕には無い。
この三人の中で芽衣ちゃんは自分が最後と頑なに決めてるのと、僕が食後のコーヒーをゆっくり飲みたいのがあって、結衣ちゃんが真っ先に入ると言うのが通例になってきている。
結婚式まで純潔予定の結衣ちゃんと一緒に入る訳にはいかないし、芽衣ちゃんは多分一緒に入るのは拒否しないだろうけど・・・
結衣ちゃんの手前、何かそれも悪い気がする。
と言う事で、結衣ちゃんをお風呂に送り出してリビングでゆっくりコーヒーを飲んでいると、家事を終えた芽衣ちゃんがやってきた。
相変わらず裸にエプロンだけだが、一応僕達の生活ルールで共用スペースでエッチな事はしないと決めてはいる。
ただし、まあ下着姿ぐらいはいいだろうと話したけど、結衣ちゃんと芽衣ちゃん的には一応これは見えてないからセーフと言う扱いなのかもしれない。
そんな芽衣ちゃんが僕の隣に座ってくる。
「本当に・・・結衣ちゃんとお義兄さんが夢と幸せを共有できる人で良かった・・・」
微笑む芽衣ちゃんは、それを心から喜んでいる表情だ。
「僕は、芽衣ちゃんも幸せにしてあげたいよ」
そう返すが、芽衣ちゃんはにっこり微笑みながらも首を横に降る。
「芽衣は、結衣ちゃんが幸せならそれでいいんです・・・お義兄さんは、結衣ちゃんの理想の家庭を共有できる人だから・・・その幸せを見れるだけでいいんです」
「いや、僕は芽衣ちゃん自身も幸せになって貰いたいんだよ」
そう僕が言うと芽衣ちゃんは微笑むが、どこか寂しそうに見えた。
「結衣ちゃんと再会して、結衣ちゃんから理想の家庭を聞いたり、お義兄さんと付き合ってからの幸せ一杯の結衣ちゃんを見てきました・・・」
芽衣ちゃんが結衣ちゃんの夢を応援してるのは側から見ても分かる。
だけど、芽衣ちゃん自身の思いは何となくそこに無い気はしていた。
むしろ思いが同じなら、僕で無い誰かを探して恋愛してると思う。