ヒメゴト。 22
吉川…いや、これからは由梨絵と呼ぼう…彼女とともに、事務室へ。
「あ、せんせぇ、お待ちしておりましたぁ」
「おう、ありがとな」
いつものように、可憐が飲み物を用意してくれている。
俺の担当のときは、これが当たり前になってしまった。
「あ、今日は吉川さんもなんですね」
「あ、え、え…」
ニコリと微笑む可憐。それに対し、由梨絵はどこか緊張気味だ。
「どうぞどうぞ、今入れますからぁ。吉川さんは紅茶とコーヒーとどっちにしますか?」
「あ、あの…えと…」
ああ、可憐は誰に対しても優しいいい子なんだな。
うむ、あの姿は天使のようだ。
可憐は由梨絵と、俺にも紅茶を入れて出してくれる。
「ありがとな」
「いえいえ」
「ところで、可憐は由梨絵と仲はいいのか?」
「いえ、あんまり」
…そこは嘘でも繕ってくれないかな。
まあ、可憐の素直なところが好きだけどさぁ。
由梨絵もいたたまれなくて俯いちゃったし。
「吉川さ…由梨絵さんは、その、本がお友達みたいな、物静かな子だと思っていたのです」
ふむ。
…さりげなく呼び方を変えたのはなかなかやるな。
「勉強も出来ますし、私も、そんな姿から学ぶところは大きいと思い」
「そ、そんな…深沢さんのほうが…」
可憐の言葉に顔を真っ赤にして否定しようとする由梨絵。
それもそのはず、学校の成績は可憐が全体のナンバーワンだと言う話だからなぁ。
(あくまでエリカの言ったことではあるが)
「ところで、由梨絵は本が好きって可憐が言うけど」
「休み時間とか、いつも本を読んで過ごされてるので」
由梨絵に聞こうとすると、可憐がフォローしてくれる。
「あ、はい…」
「結構分厚い本ですよね、私だったら数ページで寝てしまいそうです」
…秀才のお前にそんなイメージは沸かん。
しかし同じ秀才タイプなのにこうも抱くイメージが違うというのもなんとも。
可憐とは身体のつながりもあるとはいえこんなに人懐っこくて甘えん坊だとは思わなかったし。
「由梨絵さんも、せんせぇのこと、気になりました?」
「え、あっ?…まあ…」
まあ…ってなんだろうな。
「(せんせぇは、譲りませんから)」
可憐がふっと意味深な笑顔を見せた。
…可愛いながらやはり我が強い。