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神装機伝アハトレーダー
官能リレー小説 - SF

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神装機伝アハトレーダー 6

弥生は何が起きているのか、取りあえず状況を整理してみた。
バイト帰り海を眺めていたら何もない空間から突然全裸の外人さんが現れた。
そして弟と殴り合ったり流暢な日本語で喋り出したり、そしてまた何もない空間から今度は服を出した。

「僕の名は…」
「え?何語?」

黒衣の少年が話す日本語は不自然な程に流暢だったが、名前の部分だけが上手く聞き取れない。
完全に母国語の発音なのだろうか、それとも本名を名乗り辛い事情でもあるのか。
途中に『アイン』という発音が聞き取れたので、流星が勝手にそう呼び始めた。
弥生は目をぱちくりさせながら事情を説明するアイン(仮)にフムフム頷く弟を見守っていた。

「正直『こちら側』だと信じ難い話だろうが…。」
「うん、まあアインの兄貴は漂流者って奴かな?」

弥生は流星が初対面の男性を人なつっこく『兄貴』とまで呼ぶ辺り腐女子センサー反応アリだったが、アインは漂流の基準が違い過ぎる。
彼は弥生の鼻先を(おちんちんが)かすめる様にして『何もない空間』から現れた。
今彼が着ている黒衣、古びたコートとライダースーツの様なツナギも同様の超能力、もう外人どころか明らかに人外だ。

「地球という場所の大まかな文化形態は『向こう側』でも幾らか知られている。」
「そんじゃ問題ないな、取りあえず今夜はウチ泊まってけよ、ボロ家だけど。」

弥生は弟に自宅をボロと言われて少々カチンときた。
しかし、怒る暇も無く2人が自宅に向かったので少しテンポが狂った。
確かにボロと言われればそうかも知れない。
玄関前には流星の武器であるベーゴマが転がっているし、窓は欠けておりスマイル食品の段ボールがかろうじてその穴を塞いでいる。
その茶色の面にはすらりとした狼男のイラスト。寂しくて見栄えが良くないという事で弥生が描き足したものだ。
その狼男はなぜか胸板を晒しているが当然弥生の趣味だった。
流星はその狼男を(つよそうという理由で)そこそこ気に入っていたので、外から見える場所に絵を描き足す行為についてはなにも言わなかった。
「僕としては有り難いのだけど…。」

アイン(仮)は薄々気づいてしまった事実から、敷居を跨ぐ事を躊躇っていた。
まず玄関にある靴、今この姉弟が履いている通学用の革靴とは別の靴、くたびれた運動靴がきっかり二人分あるだけ。

そして流星は学生服姿だが学校の鞄とは別の薄汚れたズタ袋(ダッフルバッグ)。
泥と汗の匂いに日焼けの加減からして土木作業に従事する少年の雰囲気を持っている。
さらに彼との道すがらの雑談で、細かい意味は理解できなかったが『うすいほん』とやらの専門店で弥生もアルバイトしているという。

つまりこの二人は学校に通いながら生活費を稼いでいる、両親やそれに相当する保護者がいないと、アインは薄々悟っていた。
アインの故郷には何かしらの事情から(次元跳躍で)地球を訪れた人間が複数いる。
彼らから聞かされた日本の生活水準だと、この姉弟は貧民層の出身だと理解した。

「取りあえず事情を聞かせて変態さん?通報するかしないかはそれからよ!」
「宿代がわりによ?兄貴のジゲンチョーヤクとかいう長旅の土産話でも聞かせてくれや!」

両親に不幸があったのか、それとも不幸になる両親の元で生まれ育ったのか
どちらにせよ不憫な姉弟、にもかかわらずなんと清々しい生き様なのか。

「おじゃまします、でいいのか?」

片やガチヲタ腐女子の姉と低脳ヤンキーの弟は、恥ずかしそうに頭を下げる異世界人を笑顔で迎えた。

大蛇院卯月とは真逆の貧乏姉弟が、よもや世界を救う人物を匿っているとは、この時点では誰も気付いていない…。

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