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神装機伝アハトレーダー
官能リレー小説 - SF

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神装機伝アハトレーダー 45

とにかくその奇妙な奇跡がレガート派に与えた影響は大きい。
元から様々な策略を使ってアエラティの主導権を握っていたとはいえ、異世界の技術は今の地位をより確実なものにしてくれる。
一族の腐敗と堕落が進みつつあったレガート派にとっては良いカンフル剤になってくれた。
無論ゼイラアにしてみれば用が済めば皆殺しにする腹だ。
とりあえず隣で思案しているラーベイトという小心な男は、腐敗した貴族軍の中で比較的良識を持ち合わせている、お人好しだ。
彼は時折凡夫の分際で、立場上仕方ないとばかり上官風を吹かせては生意気な口を叩くが、マメな性格で色々とゼイラアの世話を焼いてくれる。
だから彼はなるべく苦しくない殺し方にしようと考えていた。

次元の狭間から生まれた、居ない筈の存在という出自からして狂っているこの人物。
ドゥティに寄り添い共に戦場を駆ける、存在しない『今まで通り』を求め、ゼイラアはナリを潜めていた。

そこへラーベイトが何か思いついた様で『テレパシーで私の心を読め』といった目配せをしてくる。
表向き日常会話、思念で用件を伝える小細工だ。

「ところでゼイラアさん?指揮所に入る時は正装!と教えませんでしたか?」
「い…いえ…ラーベイト殿がすぐ来いとおっしゃったので…。」
『記憶しなさい、暗号コードと周波数は…。』
『はっ?はいっ!把握しましたっ!』

この指揮所に居る全員が異世界人ゼイラアのテレパシー能力を知っていたが、腹を探られたくない一心から深入りを避けていた。
こうしてゼイラアが密談の知恵を寄越したのは、実直かつ小心で扱い易いラーベイトだけである。

「ゴテゴテした耐圧服ついで、君のガラクタが少しでもマトモに動く様、調整してきたまえ。」
「そんな…ガラクタだなんて…あの機体は…。」
『ECMテストD3と言えば簡単に人払いできます。』
『ラーベイト殿!貴官の配慮に感謝します!』

このやり取りの後、ゼイラアは早速カターリナカスタムの調整に取り掛かった。
この世界に出現した際に発生した空間の湾曲の影響を受けて機体は歪み、しかも解析の為に軽くばらされた。
ゼイラアの努力でどうにか人型に戻せたが、部品の歪みはどうにもならない。
とても実戦には出せない、誰が見てもそう思える状態だ。

湾曲したカターリナカスタムは、皮肉にもゼイラアの歪な記憶を表しているかのようだった。
ゼイラアは呟く。
「もうどうにもならないな、レガート派のパーツで代用するか」
ゼイラアはひとりごちながら、部位ごとに分けられたタルラホーン二〜三機分相当のコンテナを確認する。

一歩間違えば手近な味方歩兵がレンジでチンされる程の電磁波を発する電子戦装備のテストと称しているので、普段なら働きアリの如く群がる技術士官や整備兵は軒並み退去していた。
部品は自由に使えと言われた、要するに全部自分でやらなくてはならないのだ。

しかし低姿勢な笑顔で蛆虫共に頼み事をするよりはマシ。
ラーベイトの様に畑を耕すミミズ程度の役に立つ奴もいるが、基本くそみその区別も付かない蛆虫共にたかられるよりはマシ。
そんな具合でゼイラアは前向きに考える事にした。
劣化コピーの地球製パーツ流用への抵抗、そして機体本来の姿への喪失感、だがそれもこれも『あの人』の為だ。

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