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神装機伝アハトレーダー
官能リレー小説 - SF

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神装機伝アハトレーダー 17

今時の日本人は危機管理に今一つ鈍感でも災害の警報にはそれなり敏感な反応を示すと、ここ一ヶ月近くでアインは学習していた。
その思い付きを流星に、弥生の携帯にも連絡した後アインは電話を切った。

残り少なくなった昼休み、アインは急いで弁当を流し込み作業機のコックピットまでよじ登る。
彼もまた地球の日常に紛れて生きる異世界人であり、地球の危機に歯噛みしながらも日常を演じる必要があった。

起動、ディーゼルと電気モーターが足並み揃え心地よく唸る。

武装こそ組み替え式の作業アームのみ、しかしアハトレーダーのジャンクパーツ移植で馬力と装甲は(異世界で)現用の装機歩兵に匹敵する。
小規模の戦闘では十分な機体、だがゼイルの行動はアインとアハトレーダーが十全に整うよりも早かった。

異次元で自己修復中のアハトレーダ本体は、サポート機器として使える程度の回復。
起動可能までもう一ヶ月、十全まで半年はかかる。

有事の際はこの作業機で対処するしかあるまい。
所々『竹尾ゼネコンカンパニー・G七号』の表記、G七号というのは形式不明作業機として役所が付けた型番である。

機体そのものは紫と黒のツートンカラーで再塗装され、左肩には二頭の狼が交差するエンブレム、いつぞやの落書き女子のセンスが光っていた。
彼女らと流星の会話の端々にも大蛇院卯月がここ一ヶ月殆ど学校に来ない、という話をしていた。
予兆は幾つもあったのに、先を読み切れなかった歯痒さと共に機体を起こし…。

ぷっしゅーん!ぽへー!

「あ。」

起動エラー、気圧系の強制排気、単純にアインの操作ミスであった。

「きゃあああっ?」

アインの脳内を女性の悲鳴が貫く。

「何が起きた!」

アハトは『映像記録再生』と告げモニターに介入。
アインの操作ミスによる強制排気の突風と砂埃が保険屋に直撃。
彼女は見事めくれ上がる自分のスカートに一瞬目を見開いた。
露わになるレースの黒下着とガーター、彼女は唖然とした表情から転じて紅潮。
そして俯き加減でスカートを押さえながら悲鳴を上げた。

「・・・。」

間を置いて青くなったアインが操縦席から顔を出す。

「エート…スミマセン…」
「死ねっ!この糞ガキ!」

彼女が投擲した拳大のコンクリ片がアインの額を捉え、彼はコックピットに転がる…。
アインは気付くべきだった、保険屋の悲鳴は外部スピーカーではなく直接脳内に響いた、そして走り去る背中の黄色い紋章…。



頭部を強打した事による痛みと、コックピットの奥へと吹っ飛ばされて視界が揺らいだ事により判断が鈍ってしまったのだ。
これによりまたもアインは重大な事に対する対応が後手に回る事になる。
このコンクリートの石1つが2人をゆっくりとしかし決定的に分断させてしまったのだ。
その決裂はどういうわけか夘月と酷似していた。

一方その頃、習志野基地にもオリハールが搬入されはじめていた。
今までの戦闘機のほぼ上位互換といえる様なこの機体は、実はあまり好かれてはいなかった。
従来の物と路線が違う、そんな感じがあったからだ。
燐光を放つ鬼火の様なアフターバーナーの噴射炎、静音化されたエンジンの恨みがましい苦悶じみた響き。
そして技官の間でブラックボックス化された箇所に使われる『零式』という呼称。
旧式機の怨念が魔改造により、亡霊として蘇ったのではないか。
隊員達の間でそんな都市伝説じみた噂話まで流れている。

そうして空自の隊員達がざわめく中、さも当然の如く黄色い紋章を背負う女はそこにいた。

売店脇の喫食テーブルで出入り業者のワゴンで買ったサンドイッチを、はむ…と可愛らしい仕草で小さく噛み千切り咀嚼している。
合間に時折アイスティーのストローを薄目のルージュを引いた唇に運び、喉を僅かに潤す。
口元を拭うウェットティッシュを取り出した小さな鞄は、スカートの裾とその奥をカバーするよう膝元に置かれている。

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