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神装機伝アハトレーダー
官能リレー小説 - SF

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神装機伝アハトレーダー 16

大蛇院卯月は人として最後の拠り所に別れを告げた。

彼女は狂っていた。

竹尾社の梅小路専務と世間話していた味木も戻って来る。

「お別れは済んだかい?」
「彼は有象無象の野良犬として踏み潰される道を選びました。」

その瞳は鬼女か魔女か、平凡な大富豪の令嬢はここに居ない。

「全て滅ぼすのみ、ですわ。」

彼女は狂っていた。


ーショッピングモール建設予定地ー

国道沿いのとある工事現場の詰め所で、ドカ弁かっ込む外国人労働者達の中に、不釣り合いな少年が混じっていた。

この物語における皆の脳内嫁アイン・シュタインであった。
…という大嘘はどうでもいい、流星が卯月の奇妙な発言を詰め所の電話でアインに知らせて来た。

「流星、アハトの演算でも敵は近々、何か仕掛けて来る様だ。」

流星は妙な所で鋭い。
その予想される戦闘に卯月とやらが絡んでいるとすぐに察したらしい。
しかし理由までは分からなかったようだ。
流星は頭が良いがまともだ、だからこそ理解が出来ないのだろう。
流星はついに黙り込んでしまった。
テレパスの応用で周囲には打ち合わせの話に聞こえる様に細工、電話線を介して流星の声も同様だ。

アインは如何にもらしい仕草で電話の傍らに弁当箱を置き、竹輪天と海苔ご飯を交互に咀嚼する。
和食なら流星で洋食は弥生といった具合それなり旨い、アインはそいつが苦くなる心境だった。

「流星…あくまで可能性だが状況とタイミングから…君の知人は…。」
『気ぃ遣わなくていいよ兄貴、俺は馬鹿だけど無知じゃねぇ。』

本来ならアインは今すぐにでも大蛇院卯月を拉致し、拷問してでも全てを吐かせるべきだった。
アインや流星は卯月が敵側関係者の疑いが濃厚という辺りまではたどり着いていた。
しかしこの時点、よもやゼイルを匿うパトロンという最悪の事態までは予想まではしていなかった。

悪く悪く話が転がって行っている。
あまりにも歪んだ運命に誰もが付いて行けていない。
だからこそ、アインも対応が遅れた。もしここで最悪の事態を予測できていたら、話は好転した筈なのに。

突如、誰かの声が無理矢理割り込む様に響いた。
「察しが良い筈なのに、なんで女の心は分からなかったのかしら」
その突然の忠告に流星は少し腹が立った。
相手があんな態度なのに本心を分かれとは、いくらなんでも他力本願すぎる…!
その声はそれだけ言い消えてしまった。こいつはなんなのだ、そんな思いだけが残された。
「おい流星、大丈夫か?」
『今なんか…女の声が。』

アインは流星にそれらしい女がいないかどうか尋ねてみた。
流星の現場は見通しがいい、媒体なしで通常のテレパス範囲は約百m。
アインのテレパシーもこうして電話を媒介し二人の会話を暗号通信化している次第である。

それに工事現場に女性なら目立つ筈、アイン側でも職人達が保険会社の若いセールスレディに鼻の下を伸ばしている。

『いや、それらしいのはいない。』
「そうか、帰ったら色々と今後の対策を考えよう。」

異世界人が攻めて来た、などと通報した所で誰も信じない。
敵が装機まで繰り出しても、映画撮影と勘違いした何割かが逃げ遅れるだろう。

こっそり近場の建物で火災報知器でも鳴らして回った方が多少は異常事態という警告になる。

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