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図書館からの帰り方
官能リレー小説 - SF

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図書館からの帰り方 2

最後まで言い切ることができずに、雄鯉は口を閉じた。ほんのかすかながら、人のものと思しき足音が聞こえてきたのだ。だが慌ててもう一度周囲を見ても、相変わらず人影らしいものは全く見えない。
「……そこにいるのは、誰?」
平静を装って問いかける雄鯉だったが、内心の動揺は抑えられなかった。何かのトリックではあるのだろうが、薄気味悪いものは薄気味悪い。足音は更に近付き、雄鯉のわずか2〜3メートルで停止した。
――どうすればいいんだ!? 絵的にどういうリアクションを求められてるんだ、僕は!?
雄鯉が結論を出せずに考え込んでいると、突然前方の地面に何かが現れた。
――嘘だろ。人間の足だ!
今度こそ現実離れした出来事である。雄鯉は息を呑み、全身からどっと冷や汗を噴き出させた。その視線の先では膝、太腿が順に姿を現し、やがて胴体と腕も見え始める。最後に頭部が現れ、ここに晴れて人間一人が出現した。
――まさか、光学迷彩か!
光を捻じ曲げ、人や物を見えなくする技術があることは雄鯉も聞いていた。だが一体いつ実用化されたのか。そして何故こんな所にあるのか。様々な疑問が脳内を駆け巡った。
とりあえず現れた相手を見ると、全身青ずくめのこれまた異様な出で立ちである。まず頭にはヘルメットのようなものを着け、顔全体を隠している。さらに全身はタイツのようなもので覆われ、体型が完全に晒されていた。くびれたウエストと豊かな腰回り、そして片方だけで成人の頭より大きな乳房が、女性であることを雄弁に語っている。身長は180センチぐらいか。160センチそこそこの雄鯉より大分大きい。
「あなたは……」
うまく言葉を発せられず、口をパクパクさせる雄鯉に、女性は落ち着いた口調で話しかけてきた。
「済まないな、地球人の少年。今見たことは忘れてくれ」
そう言うと彼女は、雄鯉の目の前に右手をかざした。その手が細かく振動したと思った瞬間、雄鯉を強烈な眠気が襲う。
――何だ……?
このままつっ立っていると危ない。本能的にそう考えた雄鯉は、左斜め前にふらりと倒れ込んだ。同時に体を左に回転させ、左足を大きく振り上げて女性を蹴ろうとする。胴回し蹴りだ。
「何っ!?」
ヘルメットの女性は、驚いて飛びのいた。蹴りを外された雄鯉は無様に地面に転がる。だがその衝撃で、ほとんど夢うつつだった意識が大分覚醒した。
「ううっ……」
相変わらず状況は全く分からない。ただ、余り理解したくはないのだが、ドッキリなどという生温いシチュエーションではないようだ。素早く立ち上がって頭を軽く振る雄鯉に、女性は落ち着いた口調で話しかけてきた。
「何をする?」
「そりゃこっちの台詞だ。どういうことなのか事情を説明しろ」
雄鯉は毒づいた。腰を少し落とし、左右の掌を若干前に突き出すサンボ(ロシアの格闘技)の構えを取りながら、女性との距離をじりじりと詰めていく。とは言え本当に仕掛けるべきか否か、彼はこの時点ではまだ決めかねていた。

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