天才橘博士の珍発明 7
「しかし、その薬、変な副作用は無いだろうね?例えば…川崎病になった子供が治療が遅いと心臓に爆弾を抱える結果になるみたいな、体の奥深い見えないところで変な作用をしていたりはしないだろうね?」
「うっ……そればかりは、僕からは何とも……」
「さくらと健悟さんの心配ももっともやねぇ。近いうちに検査は受けておきましょう。それでいいんじゃないの?」
(橘博士……もし変な後遺症があったら恨みますよ…)
メイがとりなしている間、翔太は後で橘博士をとっちめて問いただすと決意した。
しばらくメイになだめられていたさくらは、大きなため息を一つついた。
「はぁ…わかったわ。お母さん……が元気になったのはいいとしても、これからどうすればいいのよ…?こんなに若返ったなんて知られたら、騒動間違いなしよ」
「そうだねぇ……ご近所さんをどうごまかすか、それにネットに流れたりメディアスクラムが起きたり変な騒動は困るねぇ」
健悟も懸念を示す。
「ええやん、あんたらの姪っ娘を預かったことにしといたら」
「お義母さん…いくら名前が名前だからってそんな安易な」
メイが提案するが、健悟はややげんなりして答えた。
「じゃあ何か手はあるのかい?」
「……はあ、思いつかないよ」
下手なジョーク扱いして流そうとした健悟だが、さりとて対案も思いつかず大きくため息をついてお手上げムードになっている。
「仕方ないわね。お母さんの言った通り、姪っ子を預かったことにするわ」
「それしかないか」
メイの提案以外の案も見当たらず、さくらも健悟も仕方なしといった様子で承諾した。
それから健悟とさくらが翔太を強く見据える。
翔太は彼ら夫婦の背後に阿修羅を見たような気がした。
「そして、島崎さん」
「この件、絶対に他言無用だ。わかりますね」
「は、はい…もちろんです」
激しく首を振り、頷く翔太だった。
話が終わると、夫婦達が席を立ち始めた。
健吾はメイの転校手続きの為に学校に電話を掛ける。鈴音は夕食の支度をしに台所へと向かった。話も一段落して落ち着いた環境になったのを確認すると健吾は翔太も自宅へと帰る様に薦める。家を出る時、メイが玄関先まで見送りに来た。
「1人で帰れるのか?」
「家は隣だよ」
翔太が呆れた口調で話す。
「そうか、またね…おやすみ」
メイが微笑みながら軽く手を振った。
彼女の可愛らしい表情を見て、翔太は少し胸が高鳴った。今朝まで高齢だった女性とは思えない可愛らしさとあどけ無さを感じた。
翔太は手を振りながら、その場を立ち去り、自宅へと帰宅する。
家に帰ると、その日の出来事が嘘だったかの様に家の中は穏やかな空気に包まれて居た。
夕食を済ませて、部屋に戻った翔太は、しばらくスマホでウェブのニュースを見ながら、何時の間にかベッドの上で深い眠りへと落ちてしまった。