異世界の獣人たち 7
「あら…まあ、貴方…主人にも気に入られてしまったわね」
母親が苦笑しながら言う。
母親がテーブルに食事を並び終えると3人で食事を始める、その時…フィアナの姿が見えない事に気付いた新一が母親に話し掛ける。
「そういえば…フィアナは、何処に行ったのですか?」
「あの娘は、今身体を洗いに行ったわ。先に食事していて…と言ってたわ」
「食後に身体を洗えば良いのでは?」
「乙女は見出しなみが大切なのよ。あまり変な事言うと娘に嫌われるわよ」
そう言いながら母親は新一の向かい側で食事を始める。
「ところでよ…お前さんは娘の何処が気に良ったのだ?あまり言いたくは無いが…我が家の娘は母に似て偏屈者で、更に良い年してペッタンコだしな…悪い事は言わねえ、もっと他の可愛い娘を探した方がイイぞ。何なら俺が若い娘が集まる場所を教えてやってもイイぞ…」
父親が小声で言うと、母親が拳でテーブルをドンッと叩く。
「ちょっとアナタ、せっかくフィアナが連れて来た未来の旦那に変な事を吹き込まないでくれるかしら?」
「イヤァ、俺は単に彼に世間の常識と男性社会のマナーを教えようとー…」
言葉を続けようとした父親に対して、母親が木製の皿を投げ飛ばし、ガンッと音を立てて見事に父親の顔面に直撃する。
新一は変わった夫婦生活の一場面を見て少し呆気に取られていた。
「ところで…フィアナが身だしなみを整えるって、その…いきなり今日初夜を迎えてしまう事になっても良いのですか?」
その言葉に父親と母親が唖然とした表情で新一を見る。
「あら…貴方、娘のシッポを触って、あの娘に気に入られたのでしょ…何か不安なの?」
「シッポ触られた感触が無心になる程の相手なら、それはもう…相手の求婚そのものだ…娘を託すに値する事と同じだ、遠慮する事は無いさ…」
変わった村の風習に新一は戸惑いを隠せ無かった。
「婚礼とか、そう言うのはしなくて大丈夫ですか?」
「そうね…役所への籍を移さないと、役人に見つかった場合、ちょっと面倒ね…」
「式なんて、貴族がするものだよ…まあ、今日は娘が戻って来たら一緒に食事をして、近くの宿で一晩過ごせば良いさ」
父親は酒を飲みながら言う。
「ところで、お前さんは…アッチの方はどうなんだ?女を抱く時、少し位強く無いとガンバレないぞ?」
「あまり自信無いですね…」
それを聞いた父親が少し呆れた表情をする。
「オイオイ…ウチの娘を嫁にしたがる男連中が大勢いるのに、上手く無いと娘に蹴落とされるぞ!アイツは結構強気な性格だから、キャンキャン言わせる位でないと…」
ドスッ!
父親の言葉を遮るかの様に母が一撃を喰らわしに掛かる。
「ゴメンね、亭主が変な事を言って…まあ、頑張って元気な子を産んで欲しいわ、孫の顔を早く見たいからね…」
「分かりました…」
新一は、まだ夢の中に居るのかな…と少し戸惑う気持ちだった。
※
近くの温泉で身体を洗い終えたフィアナは家に戻ろうと足早に歩いて行く。その途中…物陰から家の中を除く人影に気付く、フィアナはその後ろ姿を見て溜め息混じり相手に声を掛ける。
「何をしているのよルミラン?」
その言葉にビクッとしながら驚いたルミランと言う男性は振り返りながらフィアナを見る。
小柄なフィアナと比べて背丈が大きくいルミランは、黒色のネコミミとシッポを生やしていた。
「お…お前、何でアルティム族の人間なんかを家に連れ込むのだよ!」
「そう言う理由で、他人の家を除くの?」
「そうじゃ無いけど…もしヤツ等が村を襲ったらどうするのだ!大体…アイツ等は魔術を使うのだぞ!」
「心配しなくても大丈夫、新一は貴方が考えている人間では無いので…」
「お…お前、アルティム族の人間と名前で呼び合う仲なのか、オレがいるのに…!」
「貴方とウチが何時恋人になったのよ?」
「ウウゥ…」
ルミランは何も言えずに困った顔をする。
「言う事が無ければ、これで失礼するわね」
「お…オレは、まだお前との関係を諦めたワケでは無いからな!」
それを聞いたフィアナが振り返りルミランを見て言う。
「悪いけど…ウチは、貴方だけにはシッポを触られたく無いのよ」
「ウウゥ…」
フィアナは、気落ちしたルミランの姿を見ずに家へと向かう。
家に入ると父親が酒に酔った状態で話に盛り上がっていた。
「オウ…我が娘、良く帰って来たな」
父親が酒を飲みながら言う。
新一と父親が楽しく話をしている姿を見てフィアナは、少し嬉しそうな気分を見せる。
「聞けよ娘…彼はチキューと言う星から来たのだぞ!」
「お父さん、チキューじゃ無くてチキュウですよ」
笑いながら新一は言う。
「何が違うのだ?」
2人が話をしてる中、フィアナはテーブルに着き1人食事を始める。
「で…何だっけ、二本と言う国にいたらしい…」
「二本じゃ無くて…日本です」
「なんか解りにくい説明だなぁ…?」
軽く食事を済ませたフィアナは、口元を拭き無言で立ち上がると新一の手を掴む。