過去に戻った男 7
今度は、部屋には教授しかおらず、二人だけの話になる。
「岡本教授、考えたのですが、やはり、留学の件、辞退させてください」
「ほう、何でそう判断したんだ?」
僕は一呼吸置いた。これを言ったときの教授の反応が予想しにくかった。でも、適当なことを言うより、パパと、小学生の僕の知見を総動員して考えた結果の方が、説得力はあるような気がした。
「教授『これからは中国の時代』と思いましたが、考えた結果、そうではないかも知れません」
「何でまた」
「中国人と接して思うのですが、彼らの考えや行動は、世界標準…欧米の標準かも知れませんが…からかけ離れています。東洋のみ新しい秩序ができるかも知れないとも、考えたのですが、彼らの行動についていく勢力はそれほど大きくないと思うのです」
「ほう、では君は、近い将来、どんな世界の、アジアの秩序を予想する、または、いいと思うのかね」
「わが国は、東南アジアやインドと組んで、中国の覇権でない、アジアの秩序を目指すべきと思うのです」
岡本教授は、やや下を向いて椅子に腰を下ろした。
「石塚君…よく、言った。私自身も、中国人と接していて、そう思うことはあった。しかし中国を研究するゼミをやっている立場上、そんなことは考えることも許されなかった……君によりよい未来を。中岸ゼミへの推薦状を書こう。追い出すわけではない。君の将来には、それがふさわしいと思うからだ」
「中岸ゼミ……」
中岸ゼミ。東南アジアを研究している。実はそっちは岡本ゼミより大規模で、留学生を何人も受け入れ、他との連携も多い、人気のゼミなのだ。
「あの、もったいないお言葉、ありがとうございます」