過去に戻った男 2
「そうだよね…」
「じゃあ、私、仕事行ってくるから!」
そう言って、若い時のママは、ドアから出て行った。
僕は、目の前のパンとスープとサラダとヨーグルトの朝食を食べた。
頭の中に、だんだん記憶が流れ込んできた。
僕がこの後行くべき大学と教室。それは、パパの通ったところだった。
食べ終わって、流し台で食器を洗って、僕は流れ込んだ記憶の場所で席に座った。
「智樹、岡本教授が呼んでたぞ」
「えっ?僕、なんかしたっけ?」
「たぶんいい知らせだぞ!」
記憶をたどって、僕は岡本教授室に向かった。
「早上好(ザオシャンハオ)」
教授は中国語で話しかけた。意味は分かった。「おはよう」
そう、パパは、中国語の日常会話くらいはできるみたいだった。
「ザオシャンハオ」
「早速だが、深圳(環境依存文字。二文字目は土ヘンに川)(中国、広東省、香港のすぐ北の都市名)一年間留学の件だが、君を推薦しようと思っている」
僕がいた時代は嫌中ムードが溢れているが、パパの時代はそうではなかった、と聞いたことがあった。パパは深圳に一年間留学に行って、それで今の会社の地位の基を築いた、ようなことを聞いた。
でも、それは、せっかく会えたママと、一年間離れることを、意味する。頭の中に流れ込んだ情報が物語った。
「あの、辞退しても、よろしいでしょうか?」
「あら、どおして?」
岡本教授の娘で僕の友達の岡本真理が聞いてきた。真理も女子大生だった。
記憶をたどって真理のことを思い出す。すると、どうやらパパはモテるみたいで、二股をしていたみたいだ。
そして、ママはパパが二股をかけていることも知っていて、パパと付き合っているらしい。
「どおした?」
「い、いえ。あの、もうしばらく日本にいたいというか。」
そして、教授が、
「まあ、すぐ決めなくてもいい。ゆっくり考えなさい。」
「ありがとうございます。はい、少し時間をください」
そう言って僕は教授室を後にした。少し後に真理もついてきた。
「どうしたの?あれほど行きたがっていたのに。『これからは中国の時代』って言って」
パパはそういうことを言っていたのか…まあ、未来のことは予想できないからな…
「ええ、ああ、ちょっと」
真理は僕の前に出て、表情を覗き込んだ。
「私と離れたくない、っていう感じではないわね」
真理はそう言ってニヤッと笑った。
「もしかして、他に気になる人でもぉ?」
「え、それは・・」
「伊織ちゃんと離れたくないの?」
「えーと。」
「その顔は当たりって顔ね。」
真理は突然、僕の前に回ってきてから僕の顔を自分のおっぱいに押し付けた。
幸い、ここの廊下は人通りが少なくて僕たちだけだった。
「どうしたんだよ?」
「なんとなくこうしたかったの。今日、家に泊りに来ない?」
「ごめん。今日は伊織の家に泊まりに行く約束が・・」
「なら、明日、泊まりに来てね。絶対だよ。」
「分かったよ。真理のおっぱいは気持ちいいけど、そろそろ放してくれないかな?」