モンスターハーレム 124
「いいだろう」
サルスベリはニヤリと笑いながらそう言うと、無造作に薬の小瓶を差し出した。
『別の手段』の説明をしないことと言い、薄気味悪い笑顔と言い、突っ込みどころは満載だが、今のオレに突っ込む余裕も度胸もない。
「これ全部を飲め。
それだけでオマエは今の何倍、いや何十倍も強くなる」
「全部!?」
「ああ。見た目は同じように見えるが、中身は全部違う内容でな。
不安なら薬に何が入っているか、説明するか?」
「い、いやっ、いい!」
恐怖の解説を聞くくらいならと、オレはあわててビンのふたを開けて薬を一気に飲み干した。
・・・今思えば、オレは場の空気に呑まれて冷静さを失っていたんだろう。
でなければあんなマネをするはずが絶対ないはずだった。
サルスベリは目的のために自分と止めようとした実の姉妹さえもモルモットとしてオレの生贄にした女なのだから。
事実、薬の効果はすぐに来た。
トサッ・・・
(・・・へ?)
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
風船が中の空気を全部吐き出したみたいに、全身の力抜けてしまったのだ。
(なっ・・・!何だよ、これ!?)
泡を食ったオレは、サルスベリに文句を言おうとするが、口を動かすことすらままならず、その場でピクピクと震えているだけだった。
視線の先でサルスベリは不敵な笑みを浮かべたまま、頼んでもいない薬の説明をし始めた。
「効き始めたようだな。
正気を残しているうちに説明しておいてやろう。
今、お前が飲んだ薬には筋肉増強剤などのドーピング薬と古今東西あらゆる毒を混ぜ込んである。
まもなくドーピングで無理やり身体機能を高めた身体を毒が蝕み始める」
なっ・・・!?何だとォッ!?
「人間なら飲んだ瞬間に即死するレベルだが、魔物であるオマエはドーピング薬のおかげでかろうじて生きていられる。
薬の効いているうちに魔物の本能を目覚めさせろ。
それがお前の助かる唯一の道だ。
・・・ああ、断っておくが解毒剤など私は持っておらん。
私は別に、オマエが死体になっても研究できるからな。
せいぜいがんばってくれよ?」
しかしサルスベリの言葉は、すでにオレには届いていない。
薬によって強化された肉体と毒とのせめぎあいが始まりつつあったから。