僕は貴女の剣となりて 1
聖暦894年、アクシズ大陸を支配していた帝王トラゾロンが死去した。
天下という大樹を支える、偉大なる根のカリスマを持った王がいなくなった大陸は、ある者は正義をまたある者は野望をと己が胸に宿る志を世に知らしめるため国を興し、また戦った。
その戦火は海を越え山を越え、この世界を飲み込んでいった。
「姫、どうかご覚悟を…」
「どうして、お父様が犠牲にならなければならないの!」
洞窟に沈痛な声と、澄んだ高い声が響き渡る。
広い広場の様な場所、その中央にある祭壇。暗いはずの洞窟が此処だけは何故か太陽の日があたっているかのように明るい。
そして、黒いローブの老人と緑と白を基調とした露出度が高いドレスの少女、そして紺色の軍服を身に着けた壮年の男が向かい合って立っている。
彼らの立つ数メートル先に、白で統一された祭壇がある。
彼らの目の前には祭壇に刺さっている槍が一本。
光り輝く青の柄と銀の刃、豪華な装飾を施されたその槍は見るもの全てを魅了する輝きを放っている。
悲愴な声で叫ぶ少女を、男は優しく諭すように語りかけていた。
「アレグリア、これは王として果たさなければならない使命なのだ…わかってくれ。
命を差し出すことでしか、国とお前の未来を拓けない私を、許して欲しい。
私は、いつまでもお前を愛しているよ。父として、いつまでもお前を見守っている。
お前は強い子だ。私の自慢の娘だ。アーニャ」
「お父様……」
抱きしめられ、彼の腕の中で絶句する。
幼い頃からの愛称のアーニャで呼ばれ、アレグリアの胸中には、優しかった父との思い出が次々に思い出されていく。