勇者が○○○で世界を救う! 5
「鉄球って、なんて無粋な響きなの。フレイルと呼びなさい。」
上顎を上げたユニスは、あからさまにアルミラを挑発した。
「重剣なんて使ってるからあんな弱い魔物にも囲まれてしまうの。それに背中に鎧なくてがら空きだし。『背後から殺してください』と言ってるようなもの。ひょっとしてお金無くて鎧ケチったの?正規軍がいるとはいえ、たった二人で戦況を覆せると判断して突っ込むとか、バカ丸出しなの。それこそ魔物の思うつぼなの。」
次々にダメ出しを続けるユニス。
間髪入れずにエルミラが反論する。
「確かに少し重いけどね、その分固い魔物でもぶった斬れるのよ!あんただってそんな鉄球じゃ、魔物を切断出来なくて完全に仕留めないんじゃないの!?それに私は鎧ケチってなんかないわ!魔物に背を見せる前に殺せば良いんだから!」
「成程。背中にそこのひょろっちい男を置いて戦えば良いと。でも、あまり肉弾戦には向いてなさそうだし。ゴブリンに囲まれた時、男の詠唱が間に合わなかったらどっちにしろ殺されてたと思うの。」
「なッ……」
偶々、拘束の詠唱が間に合ったから魔物の群れを一網打尽にできたわけであるが、ロキの詠唱が間に合わなければ。あの大勢の魔物に囲まれた時に、隙を突かれ袋叩きに遭っていただろう。
「……見ていて危なっかしいから、私がパーティー組んであげるの。感謝すること。」
エルミラが言葉に詰まった際に、ユニスが上から目線で協力を申し出た。
「あ〜ら?『あまりにも弱そう』だってさっき言ってたじゃない?…良いのよ別に。新教のお強い聖騎士サマは弱い私たちじゃなくて他を当たって貰って。私たちは他の人と組んで貰うから。」
エルミラはあからさまに嫌そうな顔で断る。
「ま、まあまあ。ほら、さっきみたいに魔物に囲まれでもしたら今度こそ危ないことになるかもしれませんし。一度に複数の魔物を叩ける武器を扱える人が一緒にいるなら、頼りになりますって。…ユニスさん、これからよろしくお願いします。」
ロキがペコリとお辞儀すると、アルミラはますます不機嫌になった。
「ひょろっちいのは素直なの。よろしくなの。」
「……『なの』ってなんなのよ。耳障りね。」
「口癖。」
「あ、そう。」
アルミラの額に、青筋が浮かんだ。
「聖職者だからって、特別扱いはしないわよ。確か、神のもとに平等でしょ?
それに、弱いとか強いで一括りにされても…困るのよ。パーティーはそれぞれ、
特技を活かし合うものだから。本当は飛び道具が使えて鍵とかが開けれて、情報網やバックが
ある人を探してるのよ」
「新教は商工ギルドと繋がりが深いの。盗賊ギルドは儲けのために魔王と取引したことが
ばれて国王がカンカンになって弾圧中なの」
「じゃあ、飛び道具はどうなの?見たところ長弓や弩は持ってなさそうだけど」
剣士であるアルミラにはフレイルは身分の低いものが使う武器という意識が残っていた。
もし、石を投げると言い出したら笑ってやろうと彼女は思う。
「長旅でそんなものはかさばるだけなの。今はこれがあるの」
ユニスのガントレットには金属で出来た三本の筒がついていた。
「見て、あそこにゴブリンの骸があるの」
彼女は魔物の死体に向けて左腕を伸ばすと右手の指先を筒の一つに触れる。
本来は礼拝の際に蝋燭に火を灯すための初歩的な術であったが、火薬の点火に用いた。
轟音と白煙とともに弾丸が飛翔し、死んだゴブリンの右目を撃ちぬいた。
「ハンドカノン…ですか」
「し、知ってるわよ!それぐらい」
ロキは噂に聞く新しい武器が小型かつ軽量化されていることに驚き、
アルミラは騎士の馬も怯むという爆音に肝を冷やす。彼女は攻城戦向けの大砲しか知らなかった。