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樹海の怪人ハデス
官能リレー小説 - ファンタジー系

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樹海の怪人ハデス 1

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渡辺奈緒美はハデスから声をかけられた。
すらりと背の高い黒髪で瞳も黒いが顔立ちも映画に出て来るような美青年である。
「あなたは魅力的だ。ぜひコレクションにくわえたい。一緒に来たまえ」
いきなり訪問されて、これから夕食のために買い物に行こうと自転車に乗るところだった。
「え?」
抱きつかれ、驚いて自転車が横倒しになる。いきなり美青年に抱きつかれて呆然となる。
胸が高鳴る。青年は香水でもつけているのか、いい匂いがした。
そして意識が遠くなり、視界が狭くなる。奈緒美が気絶した。
新婚二年目の主婦が、自宅のアパートの駐車場から失踪した。目撃したのは近所の窓辺にいた飼い猫だけ。
自転車のかごに入っていたバックには財布、スマホ、家の玄関の鍵、生理用品、化粧品、など所持品は現場に残されていた。
その夜、帰宅した高校教師の夫が自転車やバックを見つけて警察に通報した。
警察では何らかの事件に、奈緒美が巻き込まれたものとして捜査した。
だが、手がかりとなる物証や目撃情報はまったく得られなかった。
失踪した奈緒美は、鬱蒼と繁る樹海の中央にある洋館の一室に拉致されていた。
「いい匂い……」
「この匂いが気に入ったのかね」
奈緒美はまだ寝ぼけたような意識がはっきりとしない状態で、うわ言のようにつぶやいた。
胸に響く美青年の声音に奈緒美は体の向きを変えて、ゆっくりと目を開く。
添い寝をするように横たわる逞しいがしなやかな上半身の体つきと微笑を浮かべた美貌が見えた。
(とても、いい体つきしてる、腹筋とかすごい……彫刻みたい)
奈緒美は、まだ状況を把握できていない。爽やかなのに芳しく部屋に広がっている香りは、青年から漂ってきたのと同じ匂いである。
豪華なベットの肌ざわりが心地良い。
美青年と奈緒美が全裸だと気づいたのは、青年がピアニストのような長いきれいな指先が奈緒美の唇に触れた瞬間だった。
部屋の四隅には白磁器の香炉が焚かれていて、微かな煙を漂わせている。しかし、室内がやたらと広いために息苦しさや煙たさはない。
「ちょっ、なんで私、裸にされてるの……」
奈緒美は上半身を起こし腕で胸元を隠して、美青年を見つめて、目が合うと恥ずかしさをごまかすように、豪華な室内を見渡した。
海外の大富豪の豪邸や王侯貴族の城のような雰囲気で、奈緒美はテレビ番組でこうした寝室を見たことがある気がした。そばにいるのはセクシーさ抜群の体つきをした美青年である。
(これは夢よ、きっとそうよ。ああ、こんなイケメンとベットで二人っきりの夢なんて。欲求不満なのかなぁ)
奈緒美はため息をついた。
青年は奈緒美の手の上に手を重ねてきた。奈緒美の手より大きい。
(夢……じゃない!)
「そんなに怯えなくても大丈夫だ。長旅だったから疲れているのではないか。もう少し寝るといい。私も眠らせてもらうことにしよう」
青年は体の向きを変えて仰向けになると、目を閉じた。奈緒美は眠り始めた青年に聞きたいことだらけ、わからない事づくしである。
奈緒美が全裸で困惑しているが、青年は穏やかな寝息を立て眠ってしまった。
(寝顔までかわいい……って、何か着るものないかしら)
ベットからそっと離れて、部屋の中の絨毯の上を裸足で歩きまわる。
奈緒美はこの部屋に窓がなくカーテンがないことに気づいた。あと時計がない。
眠っている青年を放置して広い部屋から出て廊下へ出ていくつかも部屋がある。
直線の長い廊下には壁に照明のランプが灯されて並んでいる。
(夜なのかしら。それにしても静かすぎて、かなりこわいんですけど……)
奈緒美は開く扉がないか適当に開けてみようとするが鍵がかかっている。
「ひっ!」
開いた扉の中を覗き込んで奈緒美は青ざめた。
天井まで届く壁際の棚にはフラスコのようなガラス容器に水に漬けられた目玉がずらりと並べられていた。
(あ、悪趣味すぎる。目玉コレクターなんて)
奈緒美は思い出した。コレクションにくわえたいと青年が言ったのを。
「……この部屋に入ってはいけません」
奈緒美は背後から声をかけられ、涙目で振り返るとメイド服を来た若い女性がランプを手に立っていた。
「あの、私は、その……」
「御主人様に外から連れて来られた方ですね」
笑顔もなく淡々とした口調で話すメイドの女性は黒髪のショートカットで小顔の涼しげな目元の乙女である。
「私の服はどこかしら。とりあえず帰りたいんだけど、ここはどこなの?」

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