亡国の王子 58
噂しあう彼らは騎士身分の者達だが、彼らが胸に着けている騎士団の徽章も様々だ。つまり所属が違う事を示している。
ここにいるのは、バンセル公爵や逃れてきた各領主配下の騎士や従士が多くを占めるが、近衛騎士団の生き残りもいる。
近衛騎士団には、少数だが女性騎士や女性従士もいる。訓練も公爵家の訓練場を借りて、各騎士団が共同使用している。今日は来ていないが、サラも時々ここで訓練している。
近衛騎士団の女性騎士や女性従士も会話に交じっていた。その一人が同性としてエルフィーネの美しさへの羨望を吐露していた。
「俺はエルフを見たのは彼女が初めてなんだが、エルフが美男美女だらけって話が本当なら、他のエルフの娘もあれだけ綺麗なのか……」
「ゲットしたいなら諦めろ。お前なんか相手にされないって。エルフの娘が美人ったって、エルフの男と結婚しちまうさ」
「解っているさ。だが殿下が羨ましいぜ…!」
「と言うか殿下も凄いな。脱出に赴いたサラ殿だけでなく、エルフの娘さんまで連れてきてしまうんだから」
場の男たちが頷いて、女性たちは少し白けたムードになるが、会話は続いていた。
「何よ男達ったら…でも、あの腕前と綺麗さは憧れちゃうなぁ」
「俺にはお前が一番可愛いよ。シュテファニー」
「もう、オズワルドったら」
「サラ殿の剣技も素晴らしいからな。俺も五回勝負したら三回は負ける。模擬戦で負けた時、いかに女性とはいえやっぱり近衛騎士なんだなって思わされたよ」
「志願して単独潜入して、殿下をここまでお連れしたんだからな。俺には真似できない」
そうした噂話は、離れた位置にいるエルフィーネの耳にまでは入ってこない。
エルフィーネは、十分身体も動かしたし、そろそろ潮時と練習を終えることにした。
(これだけ体動かすと、何だか欲しくなってくるわね…調子がいいのも、リードに抱かれているからかしら)
激しく体を動かした後で、奥深くに疼きを感じた。
リードの顔が思い浮かぶ。
早朝練習の後、疼きを抑えられず寝ているところを犯しても、怒らず受け入れてくれるリード。シンシア達に対するのと同じくらい愛情を注いでくれるリード。
(彼の子なら、産んでもいいかな…)
ふと浮かんだ考えに、自分でも驚いてしまう。でも納得してしまう自分もいるのだった。
ちなみに、人間とエルフの間でも子供は出来る。