亡国の王子 57
「さあ、始めるか」
リードは残っていた書類仕事に取り掛かる。
シンシアとサラが手伝い、サリーはお茶の用意をするため、一度離れた。
弓を構え、瞬時に態勢を整え、すぐさま狙いを定め、射る。
矢が放たれ、一つ、また一つと、標的が射抜かれ、外れる矢が無い。
シュッ……プスッ!
シュッ……バスッ!
「「「おお!」」」
多くの将士の感嘆の声で、練習場が満たされる。
「単なるエルフ娘かと思っていたが、素晴らしい腕前だな」
「エルフの弓術が、これほどのものとは…」
「敵でなくてよかったぜ」
「俺達も負けていられないぞ」
弓の訓練をしていた将士の視線の先には、正確に射抜かれた多くの標的と、それらを射抜いたエルフィーネの姿があった。
(小娘だと思ったかもしれないけど、私だってエルフなんだからこれくらいはできて当然よ。でもここの練習場の訓練って、レベル高いわね。ここの弓兵達も、並みの腕じゃないわ)
ビュンッ……シュッ…ブサッ!…どすっ!
標的の中には、連弩などで不規則に射出される飛行標的もあるのだが、エルフィーネはそれも全部撃ち落としてのけている。
賞賛の声に自尊心を満足させつつも、彼らの腕前も認めざるを得ないと思うエルフィーネだった。
「エルフィーネさん、お疲れ様です」
「ありがとう」
「百発百中じゃないですか。本当に素晴らしいです」
瞳を輝かせた近衛騎士候補の女性従士が、手ぬぐいと水を持ってきた。
エルフィーネの白い肌に浮かんでいた汗を、それで拭い取る。
訓練標的とはいえ、ひとつ残らず射落として見せるのは気分がいいもので、体を動かしたこともあってエルフィーネは上機嫌だった。
「何だか、最近とっても調子がいいの」
「殿下は大切にしてくださいますものね」
「えへへ…」
年頃の少女らしい、可愛く幸せそうな笑みを浮かべるエルフィーネ。
外様とはいえ、強い味方がいるのは心強いもの。彼女の腕前を羨む騎士や兵士、美しさを羨む女は多いものの、周りからはエルフィーネは尊重されていた。
彼女がリードのお手付きだというのも、その理由の一つではあるが。
ともあれ、訓練していた騎士達が離れたところで、エルフィーネの事を見ながら噂していた。
「エルフィーネさんって、すごく綺麗だよな。シンシア様とはまたタイプの違う美少女だよな」
「ホントそうだよな。見ろよあの笑顔。すっげー幸せそうじゃん。可愛いすぎだろ」
「可愛くて健康的で、人間とは違ったあの美しさ。殿下のお手付きじゃなかったら声かけるのに」
「おいおい、やるなよ。殿下に罰せられるぞ」
「やらないって。でも素敵だよなぁ…」
「本当に……私もエルフに生まれたかったなぁ」
男達がエルフィーネの、人間とはまた違ったエルフの美しさを噂しあったり、その美しさを羨む女性の姿もあった。