PiPi's World 投稿小説

亡国の王子
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 46
 48
の最後へ

亡国の王子 48

 リード達はいつも会食の時に用いている会食の間に集まった。
 まず目に入るのは、大きな肖像画。シンシアとユリウスの母である、今は亡きレティシアを描いたものだ。
 彼女は娘のシンシア以上に大きな胸を胸元が開いた白いドレスに包み、優しく佇んでいる。
 いつ見てもリードは思うのだ。ものすごく素敵な美人だと。
 幼き日には何度か、生前のレティシアと会ったが、綺麗なだけでなく優しく、滲み出る人柄が美しさを増幅させていた。
 記憶の中で美化されている部分もあるにせよ、この母親なればこそシンシアやユリウスが生まれたのだと思わせるだけのものがあった。
 そして会食の間には、すでにバンセル公爵や騎士たちの何名かが席についていた。
 彼らが立ち上がり、迎える。

「殿下、おはようございます。先程はユリウスが失礼いたしました」
「おはよう。その事なら良いのです。もう許しました。皆、今日もよろしく」
「寛大なお言葉、ありがたく存じます」

 リードとのやり取りの後、バンセルはあくまで穏やかな父親の声で娘に語りかけた。

「シンシアも殿下に迷惑をかけてはいないな?」

 シンシアはこくりと頷いてから父に尋ねた。

「ところで……ユリウスは?」
「あの失礼の後故、席を外させた。親として何の罰も与えぬのも示しがつかぬゆえな」

 そこで、長身痩躯の初老の貴族が話に入ってきた。

「まあその位でよろしいかと。殿下もお許しになられた事ですし……」
「ノルトホフの言う通り。その位にしておいてやってくれ」
「有難い事でございます」

 馳せ参じている諸侯の一人、ノルトホフ子爵がとりなすように言うと、リードも同意した。
 その言葉にバンセルも安堵したのを見て、リードも自身の席につく。
 今日の朝食は炒めた野菜とベーコンを卵で和えたものや、スープ、それにいくつものパン。
 リードもバンセルも、普段から食事に贅を尽くすタイプではないので、日常ではそんなに派手なメニューになることは無い。
 それでも一流の料理人の手になる物で、上品かつ美味そうな香りを漂わせている。
 各自の席に、要所を金細工で彩られた、女性の頭部と同じくらい大きくて丸いカップがある。
 シンシアの乳房よりもおおきなこのカップは、レティシアが新婚の頃、バンセル公爵が彼女の魅力を永く伝え記念にしようとして彼女の乳房から型を取って作成したものだった。
 デザートやスイーツを盛るのに用いられるもので、この時もクリームを乗せたプリンが入っていた。

「今日も美味しそうな朝食です。では、いただきましょう」

 こうして朝食が始まる。

「それにしても、ノルトホフ子爵も御孫が無事だったようで喜ばしい」
「ゲルトの事は誠に幸せな事、方々にご心配頂いた事はどれほどありがたかったか……」
「さて、魔族どもの動きですが……」
「奴らはソロモン城砦への攻撃も一息ついたようで……」

 戦時を反映して、家族の事や戦況の話題などが流れながら食事は進んだ。
 あとはデザートを食べるだけとなった頃、陪席していた貴族の一人エルガー男爵がやや改まった顔でリードに話しかけてきた。

「ところで殿下、既に多くの者が討たれ、我らが失ったものは国土だけではありません。
 我等だけでは例え勝ちを得たとしても全土を奪い返すまで一年どころか十年かかってもおかしくは無く、資金や兵士、糧食は元より人材を得なくてはなりません。そこで迎えたい人物がございます。アルシュールの街に居を構える魔術師のオフィーリア・ベッドフォードと申す者にございます」
「して、どのような人物なのか?」
 リードの顔を見て、彼が興味を抱いたと見たエルガーは答えた。
「彼女は今は亡き大魔導師ベルダン・ベッドフォードの孫娘にございます。
 若いながら祖父の才能を受け継ぐと評判高く、ベッドフォードの屋敷があったオールーンが攻め寄せられるとオールーン伯に与して戦い四か月にわたり守りぬきました。オールーン陥落後はアルシュールに移り住んだ由にございます」
「そういえば、聞いたことがあったな。かの地で勇戦した女性魔術師の事を。そうか……今はそちらに逃げ延びていたのか」
「消息不明となっておりましたが、先月アルシュールに現れたようでございます」
 リードも首都攻防の少し前にオールーンの善戦については聞いていたのだが、アールノーラポリス失陥と相前後してオールーンも敵の制するところとなり、オールーン陥落の詳細な報告を受けたのは、ソロモン城砦にたどり着いた後だった。
 激戦で勇戦し戦死した者、あるいは消息を絶った多くの者の事に紛れてしまい、リードも彼女の事は今まで忘れていた。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す