亡国の王子 43
「殿下…」
「おはようございます…いかがなされましたか?」
「どーしたのよ?リード?」
いつのまにか目覚めていたサラ、サリー、エルフィーネも、向かい合う二人を見て不思議がっていた。
「大丈夫だよ。少し早く目が覚めたんだ。みんなの寝顔を見ていたら、僕がどれだけ幸せか、再認識した」
「どんな事があろうとも、私がリード様に幸せをさし上げます」
リードは澄み切った水面のように、よどみのない顔になっていた。
シンシアも、そんな彼に慈愛に満ちた顔を向けていた。
「ふぅん…」
(お嬢様…)
(シンシア様が羨ましい…殿下をこれほど幸せなお気持ちにされるとは…)
サラもサリーも、そしてエルフィーネも、素敵な気持ちと、いくばくかの羨望を抱いていた。
「ねえリード」
「エル、どうしたの?」
「幸せそうな所を悪いんだけど…それ、大丈夫?」
「あ…」
エルフィーネは、リードの朝勃ち剛根の事を言っていた。一種我に返ったリードの心の中を、羞恥や、あの謎の衝動めいた力が蠢く。
いつものように朝まで愛を交わし精を注ぐのではなくぐっすりと眠った後だけに、剛根に力と精がみなぎっていた。いや、漲りすぎていると言ってもいい。
「まあ…」
「いつにもまして元気よね。幸せさが上乗せされてるからかしら」
「殿下のお大事が、お辛そうですわ」
「う、うむ…」
この二か月間リードと愛し愛されてきた彼女達は、こうなったリードは肌を重ねてあげないと体に澱がたまりきったようになると理解していた。
窓から射す陽光の加減から見て、朝食までまだ時間はある。
一番近い位置にいたシンシアの、白魚のような綺麗な手が剛根を包み込む。
「このような時に申し訳ありませんが、そういえば今日は殿下は朝から会食されるご予定なのではなかったか…?」
サラがベッドの脇の机に置いていた手帳を開く。
「やはり…御身を汚れたままにしてはおけませぬ」
「そうでしたわ。お風呂に入りましょう」
「ああ」
サラの言葉にシンシアも賛成し、リードも応じ、片手でシンシアの髪を撫でる。
ちゃぷん…
昨晩の熱い愛の交わりの汗を流すべく、リード達は浴室にいた。
「お体を洗ってさしあげますから」
「ありがとう」
「お嬢様、自らなさらずとも私が」
「いいのよ。今日は私がしてあげたいの」
シンシアが申し出るが、サリーはさすがにそれは自分の役目であるとばかりに割って入る。
申し出を断るシンシアの気持ちに気づき、サリーはそれ以上は何も言わなかった。
白く荘重なデザインの椅子に腰掛けているリードだったが、アンビエント帝国において半世紀ほど前から貴人用の風呂で使われているタイプの椅子で中央には腕が一本通るほどの溝が開いていた。
リードの身にゆっくりとお湯がかけられ、シンシアが問いかける。
「お苦しくないですか?」
「これくらいでいいよ」
「お大事も?」
「シンシアにはかなわないね」
リードは苦笑しつつ答える。
彼らの周りではサラやエルも自分の体に湯をかけていた。
エルの入浴風景を見ると、サラやサリーは羨ましくなる。
エルフならではの白く美しい肌は、湯を綺麗にはじいてさらさらと流れるのだ。
「こちらも張り詰めて…先に洗いますね」
椅子の溝から入ったシンシアの手が、リードの股間を優しく包み込む。
香油入りの石鹸をまぶした手が、彼の活力に満ちた玉を収めた袋を柔らかく、揉み解すように洗っていく。
同じくもう片手で、彼の剛根をまっすぐに握って、力をいれずに上下に擦っていく。
手際が良いとは言えない動きだが、大切な男に尽くしてあげたいという気持ちのこもった優しい動き。
まだシンシアは少し恥ずかしいようで、彼女の様子を見たリードは、少しだけ油の足りない絡繰時計のようだなと思った。
シンシアを見ていると、優しい気持ちになってくるリードは彼女の頭に軽く手を乗せた。
「あら…」
「いつもありがとう、シンシア」