亡国の王子 42
はかなげな魅力と、元気な魅力。そのふたつが合わさった魅力が、エルフィーネにはある。彼女を抱いていると、リードはいつもそれを感じるのだ。
「私も、好きよ…。」
愛する男の腕の中で、エルフィーネはそっと言葉を紡いだ。
翌朝。
ふわりとした日差しが差し込む部屋で、リードは目を覚ました。
まわりには愛しい四人の美少女たちが幸せそうな寝顔ですやすやと寝息を立てている。安らかな寝顔で眠る彼女たちを見ると、リードは幸せを感じるのだ。
(こんな素敵な娘たちが僕のことを本気で好いてくれる……僕も、全力で応えるよ。)
愛しさがこみ上げてきて、そばにいたシンシアとサラの頭を撫でた。
特にシンシアは一歳しか違わないこともあって幼いころからよく遊んだ従兄妹でもあるし、サラは危険を顧みずアールノーラポリス中枢にある王城に潜入して助け出してくれた。
もし、愛する女性と二人きりでどこかに隠棲しなくてはならないとしたらシンシアを連れて行くだろう。
小さいころから憎からず想っていたし、亡き母親に似てか高級貴族の娘にしては野心や私心が無く、とても大切で愛しい女性だ。彼女の父であるバンセル公爵も祖国奪還の為あれこれと動いてくれているし、シンシアの今は亡き母、レティシアはこれほど素敵な娘を産んでくれて、いくら感謝しても足りないだろう。
もし、女性を一人だけ連れて危険な場所に乗り込む必要があるとしたらサラを連れて行くだろう。
逃亡中にサラをお手付きにしてしまったし、強引に抱いたにもかかわらずリードの事を受け入れてくれて、忠誠と愛を捧げてくれている。 彼女のご両親をはじめ、ブライアント家の方々にはすまない気持ちにもなる。
すまない気持ちになるのは、彼らに対してだけではない…
リードはぎりりと歯を噛み締める。
両親や弟妹、親しくしていた友人達、侍従や護衛の騎士団や父王に仕えていた廷臣達……。彼らの多くが物言わぬ躯となってその首を女魔王ジュリアの前に並べられ、近衛騎士と一緒に戦いしリード自身も、激闘の果てに捕虜となったのだ。
両親を始め討たれた人々を、一人でも多く救えたのではないか。
なぜむざむざ死なせてしまったのか。
どうして自分だけ生き残ったのか。
痛恨と罪悪の念がいつも胸に宿っていた。
そして自分は、囚われていた間魔族に犯され続け、救出された今もこうして四人もの素敵な女の子と愛欲の日々を過ごしている。
本当にこんなことをしていていいのか。愚かな事をしているだけではないのか。
自分が酷く罪深い存在に思えてならず、リードは胸が張り裂けそうな気持ちになる。
「おはようございます…リード様?いかがなさいました?」
「えっ…?」
「とても暗いお気持ちを浮かべておいででしたから」
リードの物思いはシンシアの声によって破られた。正直、暗い思いに沈みかけた今は彼女の声がありがたかった。
だからこそ、穏やかな面持ちで優しく答える。
「…父上、母上や討たれた皆の事を考えていた」
「そうでしたか…叔母さまや他の皆様の事を…」
「僕は…生きていて良かったのだろうか」
リードの発した疑問。シンシアはその言葉の重さに慄き、胸板に双乳を押し付けるように、強く抱きしめられた。
彼の頭のすぐ横に来たシンシアの声が、思いが、深く被さってくる。
「良かったに決まっています!リード様が生きていなかったら、どうして私も幸せになれますか…?私…私…アールノーラポリスが陥落したと聞いた時、心を握りつぶされる思いでした。リード様や父上のように剣を取ることもできず、何もできず心配と悲しみに暮れていました。ですが、リード様が生きてらしたと聞いた時、本当に嬉しかった。なのに、なのに…」
必死な声で語るシンシアは、最後は涙声になっていた。
暖かい声と体温、そして彼を想う気持ちが、肌と肌で伝わってくる。
彼女の気持ちに応えるように、リードも抱き返す。
想いを受け止めて、リードの心にあった悩む気持ちが凪いだ水面のように落ち着いてきた。
「ありがとう…僕は、幸せだよ」
「そうです…おじいちゃんとおばあちゃんになってからも、一緒に…一緒に…」
「ああ…」
リードはそっとシンシアから身を離し。
すぐ前で涙ぐんでいる彼女の可愛く整った童顔の目元に指を添える。
そっと彼女の涙を、その絹のような肌から指で拭いながら。
「泣かせて、ごめんね。もう迷わないよ」
「はい!」
喜びと安心を浮かべたシンシアの顔を、しっかりと見つめていた。
そして、迷うまいと心に誓い、そしてもし迷おうとも彼女にはそんな姿を見せまいとも誓うのだった。